72:


面会時間になって、お兄ちゃんがやってきました。
わたしは待ちきれず、ベッドの上で四つん這いになって、
写真をシーツの上に広げていました。

「○○、おはよう。
 なんだ、その写真?」

お兄ちゃんが、写真を覗き込みました。

「運動会の、写真。
 先生が、撮ってくれたの」

「そっか、手紙にそんなこと書いてあったな。
 一緒に見ようか」

1枚1枚写真を指さして、わたしはその時のことを説明しました。
お兄ちゃんは、手作りの大きな旗に感心しました。

「よくこんなの、ひとりで考えたな。
 目立ってただろ?」

「うーん……旗を振るのに一生懸命だったから、
 よくわからない」

「ははは。
 お前は集中すると、周りが見えなくなるからな。
 本を読んでいる時なんて、声を掛けても気付かないぐらいだし。
 でも、これだけの旗だ。
 目立ったに決まってるさ。
 頑張ったな」

お兄ちゃんは、満面の笑みを浮かべました。

「うん。徒競走でも、初めて5位になれた。
 運が良かったせいだけど。
 同じ列に、足の遅い子がいたから」

「でも、一生懸命走ったんだろ?」

「うん」

「この写真か……それにしても、すごい顔してるな」

わたしは、ゴールの瞬間の写真を、さっと手で隠しました。

「恥ずかしがることないさ。
 必死な顔を、誰も笑ったりしない。
 笑うやつがいたら、ぶっ飛ばしてやる。
 お前は要領が悪いけど、その代わり何事にも手を抜かないだろ。
 お前は、俺の自慢だよ」

わたしは、写真から手を引っ込めました。
お兄ちゃんの手のひらが、わたしの肩に乗りました。

「お前は、やればできるんだ。
 なんたって、俺の妹だからな」

魔法の呪文をかけられたように、胸の空隙があたたかさで充たされました。
ただ、まだひとつ、冷たい芯が残っていました。

「……でも、もう走れない」

わたしはうなだれました。来年の中学校の体育祭には、参加できません。

「O先生は、何年かすれば、健康になるって言ってたぞ」

「そうだけど……」

「ああ、すごく長い時間に感じるだろうけど、
 一生の長さに比べたら、あっという間だ。
 ちょっとずつ、ちょっとずつ、元気になればいい」

胸の中の、最後の凍った欠片が溶けました。
わたしは写真をまとめて、お兄ちゃんに渡し、ベッドに横たわりました。

朝のあいだずっと、お兄ちゃんが来たらいっぱい話をしよう、
と思っていたのに、どういうわけか、言葉が出てきません。

「しかし、久しぶりに帰ってくると、意外と街並みが変わってるな。
 角のたばこ屋がなくなって、コンビニができてるし……」

お兄ちゃんが、静かな声で、懐かしそうに語りだしました。
なんでもない話題なのに、胸に滲み入るようでした。

穏やかな時間が、流れていきました。
わたしが、オブラートがないと粉薬を飲めないというと、
お兄ちゃんは飲み方が悪いんだ、と笑いました。

刻一刻と、別れの時が近付いてきました。
わたしは、ちらちらと、時計の針を確認しました。
知らないうちに、時間を盗まれているような気がしました。

「どした?」

お兄ちゃんが、わたしの視線に気付きました。

「お兄ちゃん、今度会えるの、来年だね」

「……ああ。春休みには、帰ってくる」

「……」

離れていると会いたくなり、会えば別れが怖くなります。
もっと、一緒にいたい、と思いました。
お兄ちゃんは、何か考え込んでいるようでした。

「ちょっと、O先生に会ってくる」

お兄ちゃんが、立ち上がりました。


溶けるの早いな
2017-05-09 19:35:36 (6年前) No.1
すぐとけた
2017-12-15 06:53:10 (6年前) No.2
mかあああああああああああああああああああんあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
2019-02-23 12:38:36 (5年前) No.3
いうgydrtdthぃj、bmjbmhvgstるおlkーおjppkpkkvghぇfsるkじょlんjkbjhbjせfsrふkjkbjcjhbk
2019-02-23 12:38:47 (5年前) No.4
jgfyjhけひゅvthdrつぇtdryfyjgjkんぉいlbjkchsrgふkhkcgjくkvyjvhjcthdrgづtぐkぐkgjtcyjgくひkふkgyjcthxgrdyjvhjchtdthぐk
2019-02-23 12:39:00 (5年前) No.5
残り127文字