190:



Yさんは腕組みをして、わたしの後ろに立ちました。
わたしが棚の前に陣取って、ゆっくりと商品を眺めていると、
ぱりっとした制服を着た店員が近寄ってきました。

「なにかお探しですか?」

「あ……ちょっと、見てるだけです」

知らない人と話をすると、鼓動が早くなりました。
ちらりと振り返ると、Yさんがしかめっ面をして店員を睨んでいます。
そのせいか、店員はそそくさと立ち去りました。

「ありがとうございました」

「なにか気に入ったのあった?」

「はい」

結局、そこでクリーム色のカーディガンを買いました。
そのあと、ソックスと靴も買い込みました。
荷物を手に提げて歩きながら、Yさんが言いました。

「軽いモンばっかりだね。これじゃ荷物持ちが楽すぎる」

「お兄さんは、なにか買う物ないんですか?」

「今日は特にないなぁ。身だしなみに気を付けろってUがうるさいけど、
 それより新しい交換レンズが欲しいよ。
 バイト代が入っても、Uにたかられたら残るかどうか……」

「……搾取されてるんですね」

「搾取って……えらい難しい言葉使うね。
 まだ中学じゃUもバイトするわけにはいかないし、
 おねだりされるときだけは頼られるから悪い気はしないよ」

「お兄さんって、やっぱり優しい」

「アハハハハ、照れるな。
 Uもそんな風に言ってくれるといいんだけどなぁ……。
 あいつはきっついからなぁ」

「Uも本当は、感謝してると思います」

「だといいなぁ……ポンポン言われてばっかりだから、情けないよ」

それからしばらく、Uがいかに無鉄砲で怒らせると怖いか、
そんな話題で盛り上がりました。
深刻な顔で大袈裟に語るYさんに、わたしは笑いをこらえきれませんでした。

「ハハハハハ、こんな話してるのUにバレたら、殺されるね」

「くくくく、そうですね……あ、後ろにUが!」

わたしが背後を指さすと、Yさんはその場で凍りつきました。

「……というのは、ウソです」

わたしが舌を出して見せると、Yさんはがっくりと両膝に手をつきました。

「……心臓止まるかと思った。
 そんな真面目な顔で冗談言われたら、本気にしてしまうよ」

Yさんは大きく胸で息をしていました。

「ごめんなさい……」

「あ、いや、冗談だったら気にしなくていい」

「お兄さん、甘い物は好きですか?」

「え? あ、まぁ好きだけど」

「じゃあ、お詫びにおごります」

わたしは先に立って、デパートの中の喫茶店に入りました。

「ちょ、ちょっと……」

Yさんが追いかけてきました。

「お2人ですか?」

ウェイトレスさんに尋ねられて、うなずきました。
Yさんはテーブルの向かい側の席に着くと、小声で言いました。

「ここ……女の人しか居ないね」

Yさんは首をすくめて、いかにも居心地が悪そうでした。

「ここはパフェが美味しいんです。
 チョコレートパフェとフルーツパフェ、どっちが良いですか?」

「お、俺もパフェ食べるの?
 ……コーヒーか紅茶はないのかな?」

「ありますけど、ここに来てパフェを食べないなんて、犯罪です」

「犯罪?」

「犯罪は言い過ぎかもしれません。冒涜です」

「……わかった。チョコレートパフェ頼む」

横に控えたウェイトレスさんが、笑いをこらえていました。

「わたしも、チョコレートパフェお願いします」

ウェイトレスさんが引っ込むと、Yさんはグラスの水を飲みました。

「お兄さん、Uとはこんなところに来ないんですか?」

「……コーヒーショップとかハンバーガー屋だなぁ、いつも。
 こんな高級そうな店には入らないよ」

その喫茶店は、壁といい調度品といい、19世紀風でした。

「じゃあ、今度はUと来てください。きっと喜びます。
 ちょっと高いですけど……」

わたしがパフェの値段を口にすると、Yさんは「そんなに高いの?」と
目を剥きました。


残り127文字