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わたしはお兄ちゃんのこぐ自転車の荷台に横座りして、駅までの道のり、
お弁当の入った鞄を揺らさないように、お腹に抱えていました。
外食だとわたしに食べられないメニューが多いので、
それぞれでお弁当を作って、持ってくることになっていました。
お兄ちゃんが早起きしてどんなおかずを作ったのかは、
「開けるまでのお楽しみだ」と言うことで、教えてもらえませんでした。
駅前の駐輪場を出て、待ち合わせ場所が見える所まで歩いていくと、
UとYさん、VとXさんの4人が、立ち話しているのが見えました。
Vがわたしに気がついて、「○○ちゃーん!」と大きな声をあげ、
駆け寄ってきました。Vは「あー、お兄さんだー!」と言って、
進路を変えました。
わたしはVの意図に気づいて、お兄ちゃんの前に出ました。
お兄ちゃんへの衝突コースに乗っていたVは、
立ちはだかったわたしに、相撲の立ち合いのようにぶつかってきました。
わたしの目論見では、Vを抱き留めるはず、だったのですが、
軽量級のわたしは、なすすべもなくそのまま押しまくられ、
後ろのお兄ちゃんに抱き留められて、やっと止まりました。
「お、おい……だいじょうぶか?」
わたしとVとの、華々しすぎる再会シーンに度肝を抜かれたのか、
お兄ちゃんの声はうわずっていました。
「お兄さんはじめましてー!」
「お兄ちゃんありがとう、わたしはだいじょうぶ。
V……ちょっと」
やっと止まったVを、わたしは抱きついたまま引きずっていきました。
道の端に寄って、耳打ちしました。
「V……あなた、人見知りするんじゃなかった?」
Vは初対面の人の前では、借りてきた猫のようになってしまうのです。
「えー? だって○○ちゃんのお兄さんなら他人じゃないでしょー?」
「……そういうことは、小さな声で言って」
Vはひそひそ声で抗議してきました。
「でもどうしてさっき邪魔したのー?」
「お兄ちゃんに抱き付いたらダメ」
「えー○○ちゃんばっかりずるいよー」
そんな羨ましいことは、わたしでも滅多にしていません。
わたしはVの肩に顎をのせて、囁きました。
「ダメなものはダメ。今度お兄ちゃんに抱き付いたら……コロス」
Vは黙って、首をカクカク縦に振りました。
抱擁をといてお兄ちゃんの所に戻り、Vを紹介しているあいだも、
お兄ちゃんはまだぽかんとしていました。
Uたち3人の所まで歩いていって、みんなで名乗りあい、
デパートに向けて出発しました。
人通りが多かったので、わたしたちの行列は縦に長くなりました。
一番後ろにいたわたしに、Uが近づいてきて、耳許で囁きました。
「さっきはオモロイもん見せてもろたな。
アンタもVの行動パターンが読めるようになったか」
「…………」
「そんなブスっとせんとき。
そやけどアンタの兄ちゃんカッコエエなあ……。
うちの兄ぃと交換してくれへんか?」
「いや」
と即答しました。Uは「けち」と言って離れていきました。
今度はお兄ちゃんが隣に来て、怪訝そうな声で言いました。
「Vちゃんって……いつもああなのか?」
「いつもは……だいたい変だけど、今日は特に変みたい」
「そうか……? でも、飽きなくて面白いだろ」
「うん」
「混んできたな、手、つなぐか?」
いつもお兄ちゃんは人混みで、黙ってわたしの手をとってくれるのですが、
今日はわたしの友達が居るせいか、気を遣ってくれているようでした。
前の方に目をやると、VはXさんの腕にぶら下がっていました。
Uは何を話しているのか、Yさんと背中を叩き合っていました。
たまには、これぐらい良いよね、とわたしは内心思いながら、
Vにならってお兄ちゃんの腕をとり、胸に抱きました。
「お、おい……」
お兄ちゃんはビクリと身をすくめましたが、振り払いはしませんでした。
「Vもやってる」
腕にぶら下がってくっついて歩いてみると、身長差があるせいか、
ひどく歩きにくいことがわかりました。
でも、お兄ちゃんと腕を組んで歩いていると思うと、
全身の血が沸騰したように熱くなってきて、汗ばんできました。
デパートに着く前に、お兄ちゃんが「歩きにくくないか?」と聞いたので、
わたしは「やっぱり、歩きにくいね」と言って腕を放しました。
本当は、心臓がどっくんどっくんしているのを、悟られたくなかったのです。
普通にひどい
2017-04-11 06:14:36 (7年前)
No.1