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「……わあ」

「……凄いだろ」

空いっぱいに、星屑がちりばめられていました。
言葉もなく、二人して無数の星を見上げました。
夜空すべてが、わたしたち二人のもののように思えました。

首が痛くなった頃、お兄ちゃんがつぶやきました。

「座るか」

広場の端に積み上げてあった、丸太に腰掛けました。
夜のとばりに包まれて、いつもと違った空気がお兄ちゃんとのあいだに、
あたたかく流れていました。

わたしは自分でもよく分からない何かを、口に上せたくなりました。
焦燥感とは違う、胸の熱さがありました。

「……お兄ちゃん」
「……○○」

ほとんど同時に、わたしとお兄ちゃんの口から言葉が漏れました。

「え、あ、なに?」

「お前こそ、なんだ?」

躊躇して、息を吸い、改めて言いました。

「お兄ちゃん。
 どうして、手紙くれなかったの?」

「……あ」

「住所や電話番号を教えてもらえなかったから、
 わたしからは、手紙も電話もできなかった。
 明日、わたしは家に帰って、
 次に来れるのは、きっと冬休み。
 電話は禁止されてるけど、手紙は書く。
 返事は、もらえないの?」

こんな風に言うつもりはなかったのに、
お兄ちゃんを責めるような言い方に、なってしまいました。

わたしがうつむくと、お兄ちゃんは立ち上がって、動物園のクマのように、
辺りをうろうろし始めました。
お兄ちゃんは、しばらくして立ち止まり、こう言いました。

「……すまん。
 お前のこと、忘れてたわけじゃないんだ。
 気にはしてた。
 でもな……。
 あの家に電話して、もし親父が出たら、と思うと。
 手紙も、多分開封されるしな。
 気が進まなかったんだ。
 これからは、あんまり度々は無理だけど、
 手紙書くよ」

わたしは安堵のため息をつきました。
手紙を開封されるというのは、あの父親なら、いかにもありそうに思えました。

「お兄ちゃんがわたしのこと、
 忘れたんじゃなくって、よかった……。
 これから、毎日一番に郵便受け見るから。
 電話もなるべく一番に出る」

「頼む」

「さっきお兄ちゃんが言いかけてたのは、なに?」

「……アルバムの事だ」

HクンとF兄ちゃんの顔が、すっと目の前をよぎりました。

「家にはアルバムが無かったからな。
 俺たちは写真を見る、って習慣が無かったけど、
 これから、二人でアルバムを作らないか?」

「二人で?」

「ああ、お前の写真撮って、送ってくれよ。
 俺も送るからさ」

「……うん」

言われてみると、良い考えだ、と思いました。
離れていても写真があれば、お兄ちゃんの顔を、毎日見ることができます。

自然にわたしの顔が、綻びました。
星明かりに照らされたお兄ちゃんの顔も、微笑んでいます。

「ぼちぼち、戻るか?
 あんまり遅くなると、みんな心配するしな」

「うん」

帰りの道すがら、写真を撮りに行くことを、考えました。
明日からの日々が、重苦しくなくなったような気がしました。

最後の晩は、お兄ちゃんと手をつないで寝ました。
冬休みに来るときまで、この温もりを覚えていよう、と思いながら。


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