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「○○ちゃん、手をつなぐのイヤなのかと思ってたー」
Vが嬉しそうに、わたしの手を握ってきました。
Vに微笑んで、手を握り返していると、後ろで騒ぎが持ち上がりました。
「アンタなにやっとるんやー!」
振り返ると、お兄さんが後頭部を押さえてうずくまっています。
「……お前なぁ。カメラが壊れたらどないすんねん」
「知るか! 兄ぃこそ、なに怪しいコトしてるんや。
わたしの友達に手ぇ出したら只じゃすまさへんで!」
「……全力で張り倒しといてよう言うわ」
「まだ足らへんかったみたいやな」
Uがげんこつを固めました。
わたしには想像も付かない、過激な兄妹喧嘩、というか、兄いじめでした。
わたしはVの手をほどいて、Uとお兄さんのあいだに割って入りました。
「U、やめて」
Uは戸惑ったような顔になりました。
「○○……アンタのためにやってるねんで?」
「わたし、喧嘩は見たくない」
「そうだよー。今日は○○ちゃんの記念日なのにー」
Uは肩をすくめて言いました。
「ま、しゃーないな。今日はこれぐらいにしといたる」
お兄さんが立ち上がって、わたしに礼を言いました。
「ありがとう、かばってくれて。
妹とはいつもこんなんだから、気にしなくていいよ」
Uがわたしの手を取りました。
「アンタとVだけやったら2人とも迷子になるで。
3人で手ぇつないで行こ!
兄ぃは遠くから望遠レンズで写真でも撮っとき」
お兄さんはすごすごと遠ざかって行きました。
「U、仲間はずれは可哀想じゃない?」
「エエねんエエねん。甘くしとったら勘違いしよるで」
「……?」
それから3人で、空いているアトラクションを回りました。
コーヒーカップで(わたしが)目を回し、お化け屋敷で(Vが)悲鳴を
あげました。
歩き疲れたので、オープンテラスのベンチで休憩することになりました。
Uに命令されて、お兄さんが軽食を買いに行きました。
お兄さんは、串に刺したフランクフルトソーセージとジュースを持って、
戻ってきました。
「兄ぃ、ふつうこういう時はクレープでも買うてくるもんやろ?
なに考えてるん?」
Uが呆れたように言いました。
「U、せっかく買ってきてくれたのに、悪いよ」
わたしはお兄さんから、フランクフルトを受け取りました。
「ありがとうございます」
でも、フランクフルトは脂身が多すぎて、半分食べると胸焼けしてきました。
捨てるわけにもいかず、じーっと串を見ていると、お兄さんがクレープを
買ってきました。
「これと交換しよう。それは捨ててくるから」
わたしは甘いイチゴのクレープを食べました。
Uは文句を言いながらも、しっかりクレープを食べていました。
Vはフランクフルトを平らげたうえに、クレープまで食べられてご機嫌でした。
お腹がふくれた頃には、夕暮れが忍び寄って来ました。
「なぁ○○、少しは空いて来たみたいやし、
ジェットコースターに乗らへんか?」
「……やっぱり、怖いから良い。
脈拍があんまり速くなると良くないし。
Vと2人で乗ってきて。わたしは下で見てるから」
「そうか?」
「わー。わたしジェットコースター好きなんだー」
Vの瞳が輝きました。Uも実は、乗りたかったようです。
「そんなら、上から手ぇ振るから見とってや」
4人で行列に並びましたが、乗ったのはUとVの2人だけでした。
お兄さんはカメラを構えました。
わたしはお兄さんの横に、立っていました。
お兄さんが口を動かしました。
「○○ちゃん、格好良いお兄さんが居るんだって?」
「はい、格好良いです」
「お兄さんは遊びに連れて行ってくれないの?」
「今、遠くに居るんです」
「そうか……それじゃ、淋しいね」
「はい……」
いいお兄さんでうらやましい!