221:
「さ、2人とも上がって……Vはちょっとこっちに来て」
「なにー?」
わたしはVを廊下の壁に押しつけて、囁きました。
「忘れてないと思うけど……お兄ちゃんに抱きついたら、
Vに不幸な事故が起きるかも……」
わたしがにっこりすると、Vは顔を引きつらせてうなずきました。
「わわ、わかったよー」
Vと連れ立ってダイニングに入ると、
Uがちゃっかりお兄ちゃんの隣に座って、談笑しています。
「へぇ、○○がそんなことを……」
「はい、お兄さん。○○ってあれで……」
「……U、お兄ちゃんになにを言ってるの?」
「あ、いや、別になんでもあらへん」
Uは口をつぐんで、そっぽを向きました。
油断も隙もない……こめかみに血が集まるのがわかりました。
わたしはお兄ちゃんの椅子の背を、両手で掴みました。
「お兄ちゃん、ちょっと立って」
「ん? なんでだ?」
疑問を口にしながら、お兄ちゃんは立ち上がりました。
「ここはVの席ね。お客様には並んで座って貰わなくちゃ」
「えー? わたしあっちでもいいよー?」
空気を読めていないVが、異議を申し立てました。
「V……椅子を手にしてる○○に逆ろうたらアカン。わかるやろ?」
「あ! うん、わたしこっちに座るねー」
Vがあわてて椅子に座りました。
「……? なんなんだ?」
お兄ちゃんは狐につままれたような顔をして、向かい側に腰を下ろしました。
「お兄ちゃんは気にしなくて良いの。
U、V、わざわざ来てくれて嬉しい」
「ホンマか……?」
「疑問でもあるの?」
「ま、エエけどな。今日はアンタにプレゼントを持ってきたんや。
Vと2人で選んだんやで」
Uが綺麗にラッピングした包みを差し出しました。
「これ、わたしに? でも、わたしはなんにも用意してないんだけど……」
「気にせんでエエ。アンタをビックリさせたろ思うてな。
ほら、開けてみ」
わたしが包みのリボンをほどき、包装を剥がすと、
ブックカバーと栞のセットが出てきました。
「ありがとう。とっても嬉しい」
「うんうん……そんだけ嬉しそうやったら贈った甲斐があるちゅうもんや。
アンタの兄ちゃんの顔も見れたしな」
Uはまだ、お兄ちゃんと話したくてうずうずしているようでした。
わたしは、なんとかして2人の口を封じねば、と思いました。
「せっかく来てくれたんだから、ケーキ食べて。
2人で2個もケーキがあるもんだから、食べきれないの。
ちょうど紅茶も淹れたところだし。
お兄ちゃん、良いでしょ?」
「ああ、もちろん」
「え、いいのー? やったー」
Vの視線はさっきから、ケーキに据えられていました。
「お兄ちゃん、紅茶運ぶの手伝って」
お兄ちゃんに紅茶を運ばせているあいだに、わたしは食器を出しました。
ケーキを平らげる2人の食欲は、たいしたものでした。
「2人とも、パーティーでお料理食べてこなかったの?」
「食べてきたで」
「すごい食欲ね」
「ケーキがめっちゃ美味しいさかいな」
「お兄ちゃんの手作りだもの」
「ホンマか? アンタの兄ちゃん何者やのん」
ケーキはみるみる減っていきました。残ったのは、2切れだけです。
お兄ちゃんも呆れたのか、目を丸くして見ているだけです。
「このケーキは兄ぃにも食べさしたいなぁ……。
持って帰ってエエか?」
「今日はお兄さん、いっしょに来なかったんだね」
「外で待っとる。Xの兄ちゃんといっしょに」
「え? この寒い中で? 中に入ってもらわなくちゃ」
「兄ぃが遠慮したんや。大勢で押し掛けたら迷惑やちゅうてな。
あんまり待たせたら凍えてしまうさかい、もう帰るわ」
「ごちそうさまー。
あ、○○ちゃん、あとこれ、オマケだよー」
Vが紙袋を差し出しました。
「なに?」
「ママが持って行けーって。わたしとお揃いのパジャマだよー」
Uがいつも着ているパジャマは、とても高級そうでした。
「そんな、高いもの、悪いよ」
「わたしのお古だから、ぜんぜん高くないよー。
まだ傷んでないけどー、小さくなっちゃったからー。
○○ちゃんならぴったりだよー。
気持ち悪くなかったら、着て欲しいなー」
「うん、ありがたく頂く」
2人は来たときと同じく、風のように去っていきました。
お兄ちゃんといっしょに玄関まで見送ってから、
ダイニングに戻ってテーブルを見ると、竜巻の通り過ぎた後のようでした。
「お前も、良い友達持ったな」
「うん」
「そろそろ片付けるか」
そんな性格良くないね。友達に不幸な事が起きると、私だったら言えない。その子がそうなったら罪悪感が……
2016-04-30 16:21:13 (8年前)
No.1