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「さ、2人とも上がって……Vはちょっとこっちに来て」

「なにー?」

わたしはVを廊下の壁に押しつけて、囁きました。

「忘れてないと思うけど……お兄ちゃんに抱きついたら、
 Vに不幸な事故が起きるかも……」

わたしがにっこりすると、Vは顔を引きつらせてうなずきました。

「わわ、わかったよー」

Vと連れ立ってダイニングに入ると、
Uがちゃっかりお兄ちゃんの隣に座って、談笑しています。

「へぇ、○○がそんなことを……」

「はい、お兄さん。○○ってあれで……」

「……U、お兄ちゃんになにを言ってるの?」

「あ、いや、別になんでもあらへん」

Uは口をつぐんで、そっぽを向きました。
油断も隙もない……こめかみに血が集まるのがわかりました。
わたしはお兄ちゃんの椅子の背を、両手で掴みました。

「お兄ちゃん、ちょっと立って」

「ん? なんでだ?」

疑問を口にしながら、お兄ちゃんは立ち上がりました。

「ここはVの席ね。お客様には並んで座って貰わなくちゃ」

「えー? わたしあっちでもいいよー?」

空気を読めていないVが、異議を申し立てました。

「V……椅子を手にしてる○○に逆ろうたらアカン。わかるやろ?」

「あ! うん、わたしこっちに座るねー」

Vがあわてて椅子に座りました。

「……? なんなんだ?」

お兄ちゃんは狐につままれたような顔をして、向かい側に腰を下ろしました。

「お兄ちゃんは気にしなくて良いの。
 U、V、わざわざ来てくれて嬉しい」

「ホンマか……?」

「疑問でもあるの?」

「ま、エエけどな。今日はアンタにプレゼントを持ってきたんや。
 Vと2人で選んだんやで」

Uが綺麗にラッピングした包みを差し出しました。

「これ、わたしに? でも、わたしはなんにも用意してないんだけど……」

「気にせんでエエ。アンタをビックリさせたろ思うてな。
 ほら、開けてみ」

わたしが包みのリボンをほどき、包装を剥がすと、
ブックカバーと栞のセットが出てきました。

「ありがとう。とっても嬉しい」

「うんうん……そんだけ嬉しそうやったら贈った甲斐があるちゅうもんや。
 アンタの兄ちゃんの顔も見れたしな」

Uはまだ、お兄ちゃんと話したくてうずうずしているようでした。
わたしは、なんとかして2人の口を封じねば、と思いました。

「せっかく来てくれたんだから、ケーキ食べて。
 2人で2個もケーキがあるもんだから、食べきれないの。
 ちょうど紅茶も淹れたところだし。
 お兄ちゃん、良いでしょ?」

「ああ、もちろん」

「え、いいのー? やったー」

Vの視線はさっきから、ケーキに据えられていました。

「お兄ちゃん、紅茶運ぶの手伝って」

お兄ちゃんに紅茶を運ばせているあいだに、わたしは食器を出しました。
ケーキを平らげる2人の食欲は、たいしたものでした。

「2人とも、パーティーでお料理食べてこなかったの?」

「食べてきたで」

「すごい食欲ね」

「ケーキがめっちゃ美味しいさかいな」

「お兄ちゃんの手作りだもの」

「ホンマか? アンタの兄ちゃん何者やのん」

ケーキはみるみる減っていきました。残ったのは、2切れだけです。
お兄ちゃんも呆れたのか、目を丸くして見ているだけです。

「このケーキは兄ぃにも食べさしたいなぁ……。
 持って帰ってエエか?」

「今日はお兄さん、いっしょに来なかったんだね」

「外で待っとる。Xの兄ちゃんといっしょに」

「え? この寒い中で? 中に入ってもらわなくちゃ」

「兄ぃが遠慮したんや。大勢で押し掛けたら迷惑やちゅうてな。
 あんまり待たせたら凍えてしまうさかい、もう帰るわ」

「ごちそうさまー。
 あ、○○ちゃん、あとこれ、オマケだよー」

Vが紙袋を差し出しました。

「なに?」

「ママが持って行けーって。わたしとお揃いのパジャマだよー」

Uがいつも着ているパジャマは、とても高級そうでした。

「そんな、高いもの、悪いよ」

「わたしのお古だから、ぜんぜん高くないよー。
 まだ傷んでないけどー、小さくなっちゃったからー。
 ○○ちゃんならぴったりだよー。
 気持ち悪くなかったら、着て欲しいなー」

「うん、ありがたく頂く」

2人は来たときと同じく、風のように去っていきました。
お兄ちゃんといっしょに玄関まで見送ってから、
ダイニングに戻ってテーブルを見ると、竜巻の通り過ぎた後のようでした。

「お前も、良い友達持ったな」

「うん」

「そろそろ片付けるか」


そんな性格良くないね。友達に不幸な事が起きると、私だったら言えない。その子がそうなったら罪悪感が……
2016-04-30 16:21:13 (8年前) No.1
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