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お兄ちゃんの部屋に入ると、鼻にツンと来る変な匂いがしました。
お兄ちゃんが自宅に居た頃の、部屋の匂いとは違っています。
くんくん嗅いでみると、煙草の残り香のようです。

お兄ちゃんが煙草を吸っているのは、見たことがありません。
わたしは部屋の窓を開けて、空気を入れ換えながら
お兄ちゃんは田舎に来て、悪い習慣が付いたんじゃないか、と顔をしかめました。

見回すと、畳の上にカーペットが敷いてあり、机と本棚と洋服ダンスと
ベッドがあります。
机の上や周りには、本や雑誌、鉄アレイやギターが、乱雑に散らばっています。
押し入れを開けると、なにに使うのかよく分からない道具が、ごちゃごちゃに
突っ込んでありました。

わたしはため息をついて、黙々と片付け始めました。
まず、押し入れの中の物を出して、整理して入れると、隙間が出来ました。
その隙間に、本や雑誌をきちんと重ねて入れていきます。
鉄アレイを運ぶのには、両手を使わなければなりませんでした。

床と机の上が綺麗になると、掃除機をかけ、絞った雑巾で机や本棚を拭きました。
終わった頃には、もう昼前になっていて、わたしは汗をかいていました。

この際だから、洗濯しておこうと、ベッドからシーツを剥がしました。
ふと、ベッドの下にエッチな本が隠してあるのだろうか、と思いました。
マットレスを持ち上げてみると、案の定でした。

それまでわたしは、お兄ちゃんの部屋でエッチな本を見つけても、
表紙を見るだけで、手を触れる事はありませんでした。
隠している物を暴き立てるのは、悪い事のような気がしたからです。

でも、この時は、抵抗しがたい好奇心が、むくむく湧いてきました。
お兄ちゃんが、どんな女の人の裸を見ているのか、知りたかったのです。

最初に目に付いたのは、大判の豪華な写真集でした。
アイドルのようでしたが、わたしはテレビを見ないので、誰だか分かりません。
開いてみると、南の島の砂浜で、綺麗な女の人が、水着を着ていました。
ページをめくっていくと、全裸の写真もありました。

写真の女の人は、波打つ黒髪を長く伸ばしていて、よく日に焼け、
足が長く、形の良い大きな胸をしていました。

わたしは、発達途上の自分の胸を見下ろして、やっぱり、お兄ちゃんは、
大きな胸が好みなんだろうか、と思いました。

気を取り直して、写真集を元の場所に戻し、別の1冊を手に取りました。
今度は、平綴じの雑誌でした。ぱらぱらめくると、色んな女の人が載っています。
一番目立っていたのは、ショートカットの、可愛い感じの人でした。

さらさらの髪と大きな目が綺麗で、学校の制服らしいブレザーを着ていました。
ページをめくると、控え目な胸と、白い肌を晒していました。
わたしは、お兄ちゃんの趣味に一貫性を見出せず、首をひねりました。

雑誌を戻そうとして、他の本の下敷きになっている、薄い本が目に入りました。
その本は、ひどく薄っぺらで、表紙の色が暗い感じでした。
裏返してみると、出版社名も雑誌の名前も、なにも印刷されていません。

最初のページをめくって、わたしの口はあんぐりと開きました。
男の人の大きくなったあそこを、少し年取った女の人が舐めています。

男の人のあそこは、信じられないほど太く長く、毒々しい色をしていました。
わたしの目は、それに釘付けになってしまいました。

わたしは1年前に見た、お兄ちゃんのあそこを思い浮かべてみましたが、
とても同じものだとは信じられません。
まるで、宇宙から地球を侵略しに来た、おぞましい寄生生物だと思いました。

ハッと我に返ると、口の中がからからに乾いていました。
緊張してぎくしゃくとした手で、ページをめくりました。
やくざのような男の人が、さっきの女の人と、セックスしていました。
あそことあそこが、繋がっている所まで、はっきりと見えます。

わたしにも漠然とした、男女間のセックスの知識はありましたが、
この写真は到底、現実に可能な行為だとは思えませんでした。
わたしは呼吸が、おかしくなってきました。

さらにページをめくると、女の人が太い縄で縛られて、吊り下げられています。
気持ち悪くなってきて、思わず本を閉じました。

わたしは、慎重に本を元の場所に戻し、マットレスを載せました。
目の前の壁に、巨大なあそこが、ちらちらと重なって見えました。
わたしは洗濯する気力を無くして、シーツを元通りにしました。

掃除機を片付け、居間でぼんやり座っていると、お兄ちゃんが帰って来ました。
わたしはどんな顔をして、お兄ちゃんを見たらいいのか、分かりませんでした。

お昼ご飯は、素麺でした。わたしは食事中、ずっと無言でした。
素麺だけだと軽すぎるので、デザートに切った西瓜を食べました。
お婆ちゃんが西瓜の皮を台所に持って行くと、お兄ちゃんが声を掛けてきました。

「○○、今日、俺の部屋を掃除してくれたか?」

「……うん……。
 ……お兄ちゃん、煙草吸うの?」

「え? ……どうして分かった?」

お兄ちゃんは、狼狽しているようでした。

「煙草の匂い、残ってる。
 体に悪いから、やめた方が良いと思う」

「……ああ」

なんとなく、煮え切らない返事でした。
でもそれ以上、この場で煙草の事を追及する気には、なれませんでした。

お兄ちゃんの膝を見ていると、またあの巨大なものがちらつきました。
わたしがそれきり黙り込んでいると、お兄ちゃんが聞いてきました。

「……怒ってる、のか?」

「……違う。ずっと掃除してたから、手がだるいだけ」

毎日広い家を念入りに掃除していたので、腕がだるくなっていたのは本当でした。

「お前は生真面目だからなあ……。
 ちょっとぐらい手を抜いた方が良いぞ。
 こんな広い家を真面目に掃除してたら、日が暮れちまう。
 ……って言っても、お前のことだから、
 とことんやらないと気が済まないんだろうな」

その時、わたしの頭に、天啓が閃きました。

「お兄ちゃん……今夜、お風呂で髪、洗ってくれない?
 長い髪洗うの、すごく手が疲れるから」


…………
2016-05-20 18:54:17 (2年前) No.1
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