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次の日曜日、日曜学校が終わって子供たちを帰した後、
教会の建物の2階で、3人が輪になりました。

「Uちゃ〜ん、うちに来てやろうよー。お菓子もあるよー?」

「あかん。Vんとこやと邪魔が入るしな。
 ……それに、最近Vんでしょっちゅうご馳走になってるやろ?
 どうせ行ったら晩ご飯食べて帰ることになる。
 たかりに行くみたいで悪いやん」

「Uが遠慮するなんて……どこか悪いの?」

「どういう意味やねん!
 まあ……兄ぃに注意されたのもあるけどな」

わたしもVも驚きました。

「Uのお兄さんがUに注意するなんて……珍しい」

「そんなことないで。
 ピアスの穴あけよかな、て言うたら、やめてくれって泣いて頼まれたわ」

「お兄さん、ホントに泣いたの?」

「それは……ちょっとオーバーやけど」

「お兄さんは心配してるんだよ。羨ましい」

「○○の兄ちゃんかて過保護とちゃう?」

「そうかもしれないけど……ふだん居ないでしょ?」

「ま、そらそうやけど……」

ふとVを見ると、にへら〜と顔が崩れていました。

「V、どうしたの?」

「おにーちゃんも、わたしがお化粧しようかな〜?って言ったら
 まだ早すぎるからダメって言ってくれたのー。
 やっぱりわたしが心配なんだよねー?」

Vののろけ話に、付き合っている暇はありません。

「はいはい、台本の読み合わせしましょ」

始めてみると、Vの演技は、学校で聞いたときよりずっと上手でした。
Vは暗記は得意なんだ、と思い出しました。

「こないだよりめっちゃ上手いやん。隠れて特訓したんか?」

「そんなことないよー。人がたくさんいるとダメなのー」

「本番はあんなもんやないで? 体育館に人が集まるんやから。
 どうせ『おにーちゃん』も呼んでるんやろ? 頑張らな」

「うぅー」

Uの話によると、Vは小学校の頃からいろいろ習い事をしているのに、
発表会になるとさっぱり実力を出せないのでした。

「人がいっぱい見てると、頭の中が真っ白になっちゃうのー。
 台詞わすれちゃわないかなー?」

「V、舞台の袖でUもわたしも見てるから、
 わたしたち3人だけだと思ってやれば良いよ。
 台詞忘れそうだったら、舞台の袖から教える」

やがて日にちが進み、衣装係が縫ったドレスが出来てきました。
教室で白いひらひらしたドレスを着たVは、本物のお姫様のようでした。

間近から見ると、生地が安物なのがわかってしまいますが、
舞台に立って照明を浴びれば、素晴らしく映えるはずです。

背景のパネルも、形になってきました。
構造が複雑な割に、予算不足で補強に細い角材しか使えなかったのが、
不安材料でしたけど。

忙しい毎日が、飛ぶように過ぎて行きました。
小学校の時より、時間の進み方が速くなったような気さえしました。

文化祭当日の朝、最後の打ち合わせがありました。
わたしの役目は、もうほとんど残っていません。

大道具として使う背景のパネルや椅子や机は、男子が運んでくれます。
背景のパネルを幕間にめくるのは、俊敏なUの役目でした。

打ち合わせの後、わたしとUはVに駆け寄って、手を握りました。

「練習通りにやったら楽勝やで、頑張り」

「少しぐらいトチっても、誰も気づかないよ。気楽にね」

Vの顔は少しこわばっていましたが、手を握り返してくれました。

「2人のおかげだよー。がんばるねー」

まだドレスを着ていないのに、紅潮したVの顔は見惚れるほど綺麗でした。

事件はこの後、大道具を運んでいる時に起きました。
男子が3人がかりで背景のパネルを体育館に運ぶ途中、
階段でバランスを崩して、パネルを落としてしまったのです。

大道具係が全員、踊り場に落ちたパネルに殺到しました。
パネルは無惨にも、支柱のつなぎ目の所が折れて、くの字になっていました。

落とした男子はもちろん、わたしやUも顔面蒼白になりました。

「俺、俺……」

「固まってる場合やないやろ! 本番まで1時間しかないで。
 それまでになんとかせな!」

とりあえず、体育館に運び込んで、応急修理することになりました。
折れた支柱の両側に添え木を当てて釘を打ち、
丸めた段ボールとガムテープで補強しました。

「これでなんとかなるやろか?」

もともと強度に不安があったのに、修理した部分は余計に頼りなく見えました。

「パネルをめくる時が、危ないと思う。
 劇の途中でパネルが折れて倒れたら、劇がめちゃくちゃになる」


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