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わたしは、たぶん学校で一番の本の虫だったので、
テストの問題はいつも簡単でした。
小学校のテストの点数なんて、
実際には何の役にも立たないものですが、
その頃のわたしにとってはたった一つの自慢でした。

わたしは手先が不器用で、
リンゴの皮を剥くと実の方が少なくなってしまう程でした。
そのせいか、お兄ちゃんはわたしには料理をさせず、
その代わり掃除と洗濯がわたしの役目でした。
わたしは潔癖性で几帳面だったので、
二倍時間が掛かっても綺麗にするのが好きでした。

両親の帰りが遅い日には、
いつもお兄ちゃんが晩ご飯を作ってくれました。
お兄ちゃんも部活で疲れているのに、
買い物をして帰ってきて、
料理の下手な味音痴のお母さんが作るより、
お店で食べるのより美味しいおかずを作ってくれました。
濃い味付けのものが食べられないわたしの舌に
合わせてくれたから美味しかったのだと思います。

5年生になって間もない頃、
社会と国語のテストが返ってきた日の事です。
毎週小さな書き取りのテストはありましたが、
一度に二つのテストが返ってくるのは希でした。
どちらも百点満点でした。

百点を取るのはわたしには当たり前の事で、
百点でないのが20回に1回ぐらいでしたから、
それ自体は特に嬉しくもありませんでした。

一つ問題を間違えて98点だった時に、
悔しくて教室で泣いてしまった事はありましたが、
それは間違えたのが悔しかったのではありません。
お兄ちゃんに見せられないから涙がこぼれたのです。

わたしが百点の答案用紙を見せると、
お兄ちゃんは決まってわたしの頭に手を乗せ、
前髪からうなじまでわしゃわしゃしながら、
「よし、よくやった」とか
「○○は頭がいいな」とか言ってくれました。

その日、わたしは2枚の答案用紙を持って、
自宅まで出来る限り急いで歩きました。
走っても、急いで歩くのとあまり変わらなくて、
そのうえ息が切れてしまうので、結局歩いた方が早いのです。

お兄ちゃんの方が遅く帰ってくるのが当たり前でしたが、
帰ってきたらすぐにテストを見せようと心が躍っていました。

自宅に着くと、既に玄関にお兄ちゃんの靴がありました。
お兄ちゃんが早く帰って来てる!
と思ったわたしは、お兄ちゃんの部屋に飛び込みました。
いつもならドアを開ける前に声を掛けるのに、
その時は「お兄ちゃん」と声を上げるのと、
中に入るのが同時でした。

ベッドの上で胡座をかいているお兄ちゃんに駆け寄ろうとして、
わたしはそのまま固まってしまいました。


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