162:
南国の大きな花がプリントされた、トロピカル調のビキニでした。
「えー、そんなことないよー、夏だからだいじょうぶだよー」
ぜんぜん理由になってない、と思いました。
わたしはビキニを返して、Uの持ってきた白いワンピースを手に取りました。
「白い水着って、透けるんじゃない?」
「どうせ○○は泳がへんのやから、かめへんやん」
「それもそうね」
試着して、襟が首のところまである、その白い水着を買いました。
休憩所で待っているお兄ちゃんたちは、お互いに今日が初対面です。
YさんとXさんはあまり話が合いそうにないし、
まだぎこちない雰囲気が残っているだろう、と思いましたが、
休憩所に戻ってみると、和やかに談笑していました。
お兄ちゃんに水着の包みを差し出して、鞄に入れてもらいました。
「なんだこれ?」
「ないしょ……。お兄ちゃんはなんのお話してたの?」
「ん、ああ、Yさんがカメラに詳しいっていうから、
いろいろ教えてもらってたんだ。
Xさんは音楽に詳しいから、楽器のこと聞いたりな。
俺もギターだけじゃなくて、フルートでも吹いてみようかな」
「わたしも聴いてみたい」
お兄ちゃんならきっと、すぐにフルートもマスターするだろう、と思いました。
「アンタ、なに2人の世界作っとるんや。
Vに感化されてるんと違うか?」
Uがそばに居るのを忘れていました……。
その後は、6人であてもなくそぞろ歩きました。
ショーウィンドウに、去年の夏にわたしが着ていたのとよく似た、
白いワンピースが飾ってありました。
「○○、あれ、よく似てるな」
お兄ちゃんも気が付いたようです。
「もうあれは着ないのか?」
「背が伸びたから……」
「そうか……じゃあ、F兄ちゃんのお土産代わりはあれにしよう」
試着してみると、お兄ちゃんが「うん、似合う」と言いました。
「髪の長さが違う」
「また、元気になったら伸ばせばいいさ」
「うん」
そのワンピースを買って、歩いていると、足が痛くなってきました。
こんなに長い時間歩いたのは、久しぶりでしたから。
見るものがなくなって、デパートの中の喫茶店でパフェを食べました。
他の席は女の子ばかりで、集まる視線に男性陣は居心地が悪そうでした。
わたしは、お兄ちゃんが一番格好良い、と内心思いました。
パフェを一番先に平らげたUが、提案しました。
「どないする? これからカラオケでも行こか」
「いいねー、いこーいこー」
「俺の行きつけんとこにしようか?」
VとYさんも乗り気でした。
「アニメの歌は禁止やで」
「え〜?」
Uに冷たく釘を刺されて、Yさんがしょげました。
「○○、どうする?」
お兄ちゃんが囁いてきました。
「うん……」
わたしが目をしょぼしょぼさせているのに気づいたのか、
お兄ちゃんがみんなに言いました。
「ちょっと歩き疲れたから、今日はもう失礼します」
「えー帰っちゃうのー?」
「V、無理言うたらアカンで。残念やけど、ここで一回解散にしよ」
Yさんが記念写真を撮って、解散しました。
といっても、その場を去ったのは、わたしとお兄ちゃんだけでした。
たぶん、残った4人でカラオケに行ったのだと思います。
「お兄ちゃん」
「なんだ?」
「ごめんなさい。疲れやすくて……。まだこんな時間なのに」
「気にすんな。今日は賑やかだったからな、俺もちょっと疲れた」
「お兄ちゃんも、UやVみたいな、元気な子のほうがいい?」
「バカだな。そんなこと気にしてたのか。
UちゃんもVちゃんも元気で面白いけど、お前が一番面白いよ」
家に帰って、まずお風呂に入りました。寝てしまいそうだったからです。
頭を洗いながら、こっくりこっくりしてきました。
風呂場の外から、お兄ちゃんの声がかかりました。
「○○ー、風呂場で寝るなよー! 風邪ひくぞー!」
「ふにゃ」
「寝てるのかー?」
返事をしているつもりが、舌が回っていなかったようです。
お兄ちゃんが入ってきて、頭を流して、バスタオルで拭いてくれました。
翌朝気が付くと、ちゃんと自分のベッドに寝間着を着て寝ていました。
あれ?としばらく考えて、ゆうべ風呂場で寝てしまったことを思い出しました。
1階に降りていくと、もう朝食の支度ができていました。
「おはよう、○○。起こしに行こうかと思ってたんだ」
「おはよう、お兄ちゃん……」
「ん?」
「……ゆうべ、わたしの裸、見た?」