250:
翌朝ベッドの中で目覚めたとき、わたしは異変に気づきました。
体が思うように動きません。
そのうえ、ひどい寝汗をかいていて、背筋がぞくぞくしました。
立ち上がるとめまいがして、ふらふらしました。
首や手が熱を持っているみたいで、ちりちりします。
下着とパジャマを着替えて、またベッドに逆戻りしました。
腎臓への影響がありますので、下手に薬は飲めません。
病院に行かなくちゃ、と思いながら、ご飯も食べずにそのまま寝ていました。
うつらうつらしていて、なにかの物音で目が覚めると、もう昼過ぎでした。
また汗をかいたみたいで、下着がべったり肌に張りついています。
ぼんやりした頭で、階段を上る足音を聞いていました。
コンコン、とドアがノックされました。
「○○、いるのか?」
お兄ちゃんの声が聞こえる、と思いました。
がちゃ、とドアが開いて、お兄ちゃんが入ってきました。
夏だというのに、革のジャンパーを着ていました。
「寝てたのか? ただいま。
……お前、どうしたんだ? 顔が真っ赤じゃないか!」
「ん……お兄ちゃん、おかえりなさい」
わたしがニコニコすると、お兄ちゃんが額に手を当てました。
「すごい熱だ……薬は飲んだのか?」
「薬は勝手に飲めないの。病院いかなくちゃ」
「すぐ着替えるんだ。病院に連れていってやる」
「うん」
わたしはベッドから降りて、タンスに向かいました。
なぜかまっすぐに歩けなくて、肩からタンスにぶつかりました。
「あれ? あれ?」
わたしが座り込むと、お兄ちゃんがわたしを抱えてベッドに戻しました。
「しょうがない。着替えさせてやる」
「うん」
頭がうまく働かないわたしは、着せ替え人形のようにされるがままでした。
汗で濡れていたので、下着まで替えてもらいました。
この時朦朧としていて、お兄ちゃんの様子を覚えていないのが残念です。
お兄ちゃんはタクシーを呼んで、わたしを担ぐようにして病院に行きました。
お兄ちゃんが窓口で掛け合って、順番を飛ばして診てもらえました。
幸い、尿検査の結果はまだ悪くなっていませんでした。
太い注射を左腕に打たれ、薬をもらって帰りました。
家の階段をお兄ちゃんに負ぶわれて上りながら、わたしはつぶやきました。
「ごめんなさい。せっかく帰ってきてくれたのに、台無しだね」
「気にすんな。病気のときぐらい甘えろ」
今度は自分でパジャマに着替えることができました。
わたしがベッドに寝ると、お兄ちゃんがスポーツドリンクと薬を持ってきました。
「飲み薬と座薬だ。座薬は自分で入れられるか?」
「座薬?」
「……お尻に入れる薬だ」
「お兄ちゃん、やり方知ってる?」
お兄ちゃんは薬の説明書きを読み、銀色のパッケージを破って、
細長い座薬を取り出しました。
お兄ちゃんが背中を向けて、わたしは言われる通りにうつぶせになりました。
パジャマをずらし、お尻を少しあげて、自分で入れようとしましたが、
うまく入りません。
「……まだか?」
「……うまく入らない。どうしよう?」
「……ハァ。しょうがないな」
お兄ちゃんは大きなため息をついて、座薬をわたしの指から取りました。
しばらくして、お尻の穴に冷たい物が触れました。
「○○……力を抜いて」
さすがにどきどきして、なかなか力が抜けませんでした。
わたしが力を緩めると、一気にぬるっと異物感が奥まで入ってきました。
「うっ」
お尻を下ろして、そのまま1分ぐらい、
お兄ちゃんの指がお尻の穴の蓋をしていました。
お兄ちゃんはベッドの縁に腰を下ろして、一仕事を終えた、という感じで、
大きく何度もはぁぁと息をしました。
「これで安心かな。まだご飯食べてないだろ。お粥作ってくる」
出て行こうとするお兄ちゃんを、わたしは呼び止めました。
「待って」
「ん……どうした?」
「こっち来て」
「どうしたんだ?」
枕元に来たお兄ちゃんの手のひらを取って、わたしは自分の首筋や頬に、
ぺたぺたと当てました。
「なんともない……よかった」
「お前……ホントに大丈夫か?」