105:


ここでケンカを売られたり、告白されているお兄ちゃんが、
さっきより鮮明に想像できました。
でも、それを確かめる勇気は、わたしにはありませんでした。

「……ん? どうした? そんな顔すんな。
 危ないと思ったら、生徒指導の先生に相談すると良い。
 教師の中ではたぶん一番マシだ。紹介してやるよ」

お兄ちゃんは裏庭を通って来客用玄関に行き、
スリッパに履き替えて、わたしを職員室に連れて行きました。

「失礼します」

引き戸を開けて一礼するお兄ちゃんに倣って、わたしもお辞儀しました。
中では先生方が、昼食を摂っていました。

白髪頭の、がっちりした初老の男の先生が、生徒指導主任でした。

「××、やっぱり帰ってきてたのか。
 さっき見かけて、お前じゃないかと思ってたんだ」

「T先生、お久しぶりです」

「高校決まったのか、よしよし。たまには元気な顔見せろよ」

「あんな事があったんで、顔出しづらかったんですよ」

お兄ちゃんは頭を掻きました。

「それより先生、これが俺の妹の××です。
 今年からここでお世話になります。
 体の弱いやつなんで、気にかけてやっていただけませんか」

T先生は、顔をこちらに向けました。

「おー、こりゃお前に似ず大人しそうだな。
 俺が夜中に叩き起こされるような事はなさそうだ」

T先生が露骨ににやついたので、お兄ちゃんが抗議しました。

「先生、もう勘弁してくださいよ」

「妹の前だからって、あんまり格好つけるなつけるな」

お兄ちゃんは、T先生に気に入られているようでした。
わたしは会話に割り込むタイミングがわからず、
とりあえずお辞儀しました。

「初めまして。××○○です。よろしくお願いします」

顔を上げるとなぜか、職員室中の視線がわたしに集中していました。
失敗してしまったのだろうか、と頬が熱くなりました。

しゃちほこばっているわたしの背中を、お兄ちゃんがぽんぽんと叩きました。

「そんなに緊張しなくても、取って食われる訳じゃないって。
 こんなおっかない顔してるけど、ホントは良い先生なんだぞ」

「お前なー、そりゃどういう意味だ?」

そう言いながら、T先生も笑っていました。
わたしは緊張が解けて、ホッとしました。

学校からの帰り道、お兄ちゃんが口を開きました。

「なぁ○○」

「なに? お兄ちゃん」

「中学校では友達が出来ると良いな」

「うん」

「R君とは会ったか?」

「クラスが別になったから、まだ会ってない」

「そっか……まぁ焦ることないさ」

「うん……」

ゆっくりゆっくり歩いても、家に着いてしまいました。
お兄ちゃんはわたしの部屋で荷物を下ろすと、わたしの頭に手を乗せました。

「じゃ、兄ちゃん行くよ」

「え、もう? じゃあわたしも、駅まで一緒に行く」

「きりがないからな、ここで別れよう。
 ……そんな顔すんなよ。な?」

わたしは一生懸命になって、ぎこちない笑顔を作りました。

「お兄ちゃん、行ってらっしゃい」

お兄ちゃんの手が、離れていきました。

「○○、元気でな」

短い別れの言葉を残して、お兄ちゃんはドアを開けて出ていきました。
ドアが閉まるまで、わたしはその場を一歩も動かず、見送りました。
胸が締め付けられましたが、深呼吸して、涙をこらえました。

お兄ちゃんの居ない、新しい中学生活が始まりました。
わたしのクラスの担任は、国語の女教師でした。
最初のホームルームで班分けが決まりました。
わたしの班には、見知った顔がひとりも居ませんでした。

いったいどういうメカニズムによるものか、数日が過ぎると、
教室には女子のグループがいくつも発生していました。
わたしはどの群れにも属さない、はぐれ鳥のようでした。

最初はわたしに話しかけてくる女子も居ましたが、
話のテンポがずれているせいか、根本的に話題が合わないのか、
会話が続かず、お互いに気まずくなってしまいます。

休み時間や昼休みには、小学校の時のように、
本を読んでいることが多くなりました。

新しいクラスメイト同士で遊びに行くという相談を耳にしても、
わたしには縁のない世界のお話でした。

たまに、廊下でR君を見かけることがありました。
でもなぜか、声をかけようと視線を向けても、R君は気づかないようでした。

そんなことが何度か続いて、鈍いわたしでもさすがに、
R君にはっきり避けられているのだ、とわかってきました。
やっと友達になれたはずのR君の真意がわからず、わたしは首をひねりました。


105まで行ったかWWW
気になる(*´∇`)
2015-10-10 16:05:33 (3年前) No.1
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