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VとUが代わる代わる、わたしと対戦しました。
結果は……わたしの連戦連敗でした。
数時間経って、いいかげん呆れたようにUが言いました。
「アンタ……とことん反射神経ニブいな〜。
アクションゲームは向いてないんちゃうか?」
「……そうね」
見るからにぽーっとしたVにさえ勝てないようでは、
言い訳の余地がありません。
「○○ちゃん初めてだからしかたがないよー」
「…………」
Uの顔が、意地悪そうになりました。
「はっはーん。○○、ホンマは負けず嫌いやってんな。
まぁ、Vに勝てるように修業してから挑戦してきなさい、キミ」
「くっ……!
……U、そろそろテスト勉強しないと」
「あっ、アンタ……根性汚いでぇ」
「お互い様でしょ」
わたしとUが、お互いの目から出る見えないビームの応酬をしていると、
Vが困ったような顔になりました。
「ねーねー。今度はわたしの遊びー」
それを聞いたUの鼻に皺が寄りました。
「あ……アレか?」
Vがいそいそと、クローゼットから大きな箱を大事そうに抱えてきました。
蓋を開けるとその下には、壁で区切られた部屋が並んでいます。
アンチックなドールハウスでした。
「これ……ものすごく高くない?」
「うん。大パパが買ってくれたんだー」
Vのお爺ちゃんは、孫に甘すぎるのではないか、と思いました。
Vは前に見せてくれた人形だけでなく、20体ほどの人形を出してきました。
既製のフランス人形ではなく、Vが粘土と針金と布で手作りしたものです。
その中には、目の大きなUや、目つきの厳しいわたしに似たものもありました。
「これ、わたし?」
「わかるー? 似てるもんねー」
「わたし、こんなに目つき悪い?」
Vは学習机の所に行って、引き出しから手鏡を持ってきました。
「ほら、今の顔、そっくりだよー」
「…………」
横では、Uが遠慮会釈なく笑っています。
それから、Vのお話が滔々と続きました。
「これはどこにもない王国なのー。でも王様は居ないのー」
「王様が居ないと、困るんじゃない?」
「でも王女様は居るのー(Vのことです)。
王女様は、悪い魔法使いにユーヘーされて、王子様を待ってるのー。
王子様に会えると、2人はケッコンして、即位するのー」
「もしかして、その魔法使いって、わたし?」
「ちがうよー。○○ちゃんは良い魔法使い」
「そう」
ふだんぼんやりしているように見えるVは、
わたしの突っ込みにすらすらと答えを返しました。
中学生にもなって、こんなお話を聞くのは、奇妙な気がしましたが、
なぜか馬鹿にする気にはなれませんでした。
Uは同じ話を以前に聞かされたことがあるのか、
お菓子をぽりぽりと食べながら、気のない様子でした。
やがてVのお母さんが夕食に呼びに来て、わたしはお話から解放されました。
大勢で囲む和やかな食卓は、わたしをまた落ち着かない気分にさせました。
でも、UとVに挟まれていると、さっきのような不安は襲ってきませんでした。
3人ともお腹がふくれて、気が緩んできたところで、
Vの部屋に戻って、タロット占いをすることになりました。
部屋を暗くしてベールの代わりにシーツをかぶり、
タロットの山をかき混ぜました。
「○○……アンタ、めちゃめちゃハマってるやん。
雰囲気出過ぎやで〜」
「そうだよー。なんかこわいよー」
2人を順番に占って、カードの絵柄の説明をしました。
「アンタは自分を占わへんのか?」
「わたし、占いは信じてないから。非合理的でしょ?」
「……ちょう待ち! そんならなんで占いするんや?」
「余興。外国の小説とか読むと、タロットの象徴が出てくることあるし、
知ってると役に立つ。聖書やマザー・グースやグリム童話なんかも、
知ってると面白いよ」