149:



寝間着のまま受話器を上げたときには、もう十回以上呼び出し音がしていました。

「もしもし……?」

「○○ちゃん? おはよう」

胸がどっきーん、と鳴って目が覚めました。b君の声でした。

「……電話番号、知ってたの?」

「クラスの連絡網に書いてあるよ」

「……それで……なに?」

「今日は図書館来ないの? まだ体の具合悪い?」

b君は図書館の公衆電話から、電話をかけているようでした。
わたしは動悸を静めようと、深呼吸をしました。

「今日は、行かないつもり」

「そう? じゃ、お見舞いに行くよ。預かってる物もあるし」

「え?」

「○○ちゃんの手提げ袋、昨日置いていったでしょ?」

図書館に持っていった手提げ袋のことは、すっかり忘れていました。

「あ……じゃあ、これから取りに行く」

わたしひとりしかいない家に押し掛けられたら困る、と思いました。

「無理しなくて良いよ?」

「昨日は新しい本、借りられなかったし」

「そう? じゃ、待ってる」

電話が切れて、わたしはへたり込みました。
どうしよう、どうしよう……。
そうだ、と思い出して、Uの家のダイヤルをプッシュしました。

「もしもし、××です」

「あ、○○ちゃん? Uならキャンプに行ってるけど……」

「Yさんはいらっしゃいますか?」

「Y? さっき出かけたけど、○○ちゃんと約束してたの?」

「あ、いえ、違います。お留守なら結構です」

受話器を置いて、しばらくぼうっとしていました。
でも、このまま惚けているわけにもいきません。
部屋に戻って、外出着に着替えると、覚悟が固まってきました。

そばに誰かが居ても、今まで怖いと思ったことはないのに、
どうしてb君に限ってこんなに心が震えるのか、まだわかりません。

それでも、お兄ちゃんの居ない今、ひとりでもしっかりしなくちゃ、
と自分に言い聞かせて、図書館に向け出発しました。

公園に着くと、b君は昨日と同じようにベンチから立ち上がりました。

「b君、こんにちは。待った?」

b君がまっすぐ投げてくる強い視線を、正面から受けとめました。

「いや、ちょっとだけさ。今日は顔色良いみたいだね。
 昨日初めて私服姿を見たけど、今日のも良いね。
 襟がセーラー服みたいになってて、可愛いよ」

「そう? ありがとう」

わたしは手提げ袋を受け取り、先に立って図書館に入りました。

「今日はどうするの? 勉強する?」

「本を借りたら、すぐ帰る」

新しいハードカバーの本を3冊借りて、手提げ袋に入れました。

「重いから持つよ」

という台詞より早く、手提げ袋をb君に取りあげられていました。
どうやらb君は、家まで付いてくるつもりのようです。

帰りの下り坂で、車がわたしの脇をすれすれに走り抜けました。
無意識にb君との距離を空けようとして、車道に寄りすぎていたのです。

b君がわたしの左手を取ろうとしました。
手を握られたくなくて手のひらを返すと、手首を掴まれました。

「なにするの?」

b君の目をじっと見ると、真剣な瞳が見返してきました。
b君は落ち着いた優しげな声で、わたしに囁きました。

「だって、危ないだろ?」

手首をがっちりと掴まれて、振り払うことも逃げることもできません。
わたしは必死に恐怖を押さえつけて言いました。

「行きましょう」

家の前に着くまで、わたしはずっと手首を意識していました。

「もうだいじょうぶ。手を放して」

わたしは自由になった手首を、右手でさすりました。

「明日も図書館に来る?」

「わからない。だから、待たないほうが良い。さよなら」

b君を外に残して、玄関の扉を閉め、鍵を下ろしました。
手首を見ると、握られた所が赤くアザのようになっていました。

わたしはその場にしゃがみ込んで、声を漏らしました。

「お兄ちゃん……早く帰ってきて」

涙で視界が滲みました。


bきめぇ
2016-10-18 22:48:12 (1年前) No.1
bやべぇ
2017-07-22 05:39:07 (1年前) No.2
bこわい・・・・。
2017-11-13 19:43:23 (10ヵ月前) No.3
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