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「そんなんR君に直接聞き!
ところで……アンタの気持ちはどうやのん?」
「気持ち?」
「R君を好きか嫌いかちゅうこと!」
「……U、人がこっちを見てる。
あんまり大きな声、出さないほうが良いよ?」
「誰のせいや! アンタが落ち着きすぎや!」
Uの声は、余計に大きくなりました。
「……R君は、優しくて善い人だから、嫌いじゃない」
「せやったら、告られたらカノジョになるんか?」
「ならない」
「絶対?」
「絶対」
「ハァ……返事次第ではR君を引っ張ってきたろか思うてたけど、
それやったらわたしらの出る幕無いな」
「よくわからないけど……ありがとう」
「やっぱりアレか?
兄ちゃんがカッコイイと、同い年の男はイモに見えるんか?」
わたしはまた、Uに驚かされました。
「! お兄ちゃんを知ってるの?」
「知ってるも何もあれへん。
アンタの兄ちゃんゆうたら、アンタ以上の有名人やったで。
わたしがアンタの噂聞いたんも、最初はアンタの兄ちゃんの噂のついでや」
「どんな噂?」
「人気者の兄ちゃんの妹がとんでもない変人やって噂や。
アンタの兄ちゃんは、この中学でも一番の人気者やったらしいで。
優しゅうて男前でスポーツ万能やろ?
上級生にも同学年にも下級生にも先生方にも人気があって、
ガリ勉にも不良にも男女関係なしに好かれるっちゅうんは珍しいんちゃうか?」
わたしは強くうなずきました。
「うん。お兄ちゃんの噂はきっと正しい」
「へーすごいねー」
Vが感心したような声を出しました。
「せやったら、兄ちゃんが暴力事件を起こして転校したちゅうんもホンマか?」
「……人を怪我させたのは本当だけど……お兄ちゃんが悪いんじゃないと思う」
「気にせんとき。
仲間をかばってひとりで罪をかぶったっちゅうんで余計株が上がったわ。
転校したときは、ファンクラブの子が大泣きしたらしいで」
「ファンクラブ!?」
「やっぱり知らんかったんか。
競争率高かったらしいで。
抜け駆けして告るとヤキ入れられるちゅうことやったのに、
それでも抜け駆けする子がおったらしいわ。
その子は運動部の友達がガードしとったから無事やったみたいやけどな」
CさんとBさんのことだ、と思い当たりました。
「それはたぶん、本当」
「いーなー。そんなにカッコイイお兄さんが居たんだー」
Vが瞳を輝かせました。わたしは内心、得意になるのを抑えられませんでした。
「写真、見る?」
わたしは生徒手帳を取り出して、表紙を開きました。
表紙の裏に、お兄ちゃんと一緒に撮った写真を挟んでありました。
「ね? 格好良いでしょ?
優しいし、何でも知ってるし、力持ちだし、料理も上手い。
センスが良くて、ギターも弾ける。笑顔が素敵なの。……大好き。
それに……2人とも、どうしたの?」
気が付くと、UとVが目を見開いてこっちを見ていました。
「アンタ……それをいつも持ち歩いてるん?」
「うん。入学祝いに貰ったこの時計も」
ポケットから腕時計をそっと取り出して見せました。
「アンタなぁ……コレは友達やから言うんやけど……
兄ちゃんの写真は持ち歩かんほうがエエ。
それと、わたしら以外には兄ちゃんの話せんほうがエエで」
「え?」
「アンタがこんな嬉しそうに緩んだ顔してんの初めて見たわ。
それにアンタの目……兄ちゃんの自慢してるとき、逝ってたで」
「それは言い過ぎだよー。でも○○ちゃんの目きらきらしてたー」
「間違いない。アンタはブラコンや」
「ブラコン?」
「ブラザーコンプレックス。兄ちゃん好き好きっちゅうことや。
それも超の付くブラコンやな。そんな写真持ち歩いてるんが
他のモンに知れたら、どんな変な噂立てられるかわかれへん。
アンタの兄ちゃんがアンタを溺愛しとるちゅう噂もあったしな」
「そ、そうなの……?」