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学校の帰りに並んで歩きながら、Uが現状分析を披露しました。

「休み時間にちょこちょこっと聞いただけやけどな、
 もう噂は落ち着いてるみたいや」

「そう……」

「どっちかっちゅうとアンタよりZ君のほうが噂の的や。
 なんせ授業中に男泣きやからなぁ。
 アンタに何されたにしても情けなさ過ぎや……てな」

「うん……」

「なんや、まだ元気ないなぁ。アンタにしては珍しいで。
 アンタの伝説に新しいページが加わったんが気になるんか?
 R君のときは気にも留めてへんかったやん」

Uの声には、不思議がるような、面白がるような響きがありました。
わたしは立ち止まり、大きくため息をつきました。
Vが寄ってきて、「どうどう」とわたしの背中を軽く叩きました。

「V……わたし、馬じゃない」

「元気出そうよー、○○ちゃん」

「ごめんなさい」

わたしたちは、道端に積んであったコンクリートブロックに腰掛けました。
Uが遠くを見ながら、なんでもないという口調で言いました。

「溜まってるもんがあるんやったら、吐き出してしまい。
 無理にとは言わへんけどな。なんぼでも付き合うで」

わたしはどこか遠くを見つめながら、口を開きました。

「わたし、自分が人間だと思えない」

「……ハァ?
 人間やないて、どういうこっちゃ?」

「わたしは小さい頃のことを、ほとんど思い出せない」

「それは……ふつうとちゃうか?」

「小学3年生より前のことは、ほんの少し……。
 わたしの一番古い記憶。
 あれはわたしが5歳か6歳だったかな?
 わたしはベッドの中で目が覚めた。
 首を横に向けると、お兄ちゃんが居た。
 床の上にノートを広げて、何かの勉強をしてるみたいだった」

「……それで?」

「わたしがじっと見ていても、お兄ちゃんは気づかない。
 その時、ひとつの考えがわたしを襲った。
 わたしは打ちのめされて、呆然とした」

「……その考えっちゅうのは?」

「わたしはわたしで、お兄ちゃんはお兄ちゃん。
 わたしが頭の中で考えていることは、お兄ちゃんにわからない。
 お兄ちゃんが考えていることは、わたしには読みとれない。
 お兄ちゃんとわたしは、切り離された別々のもので、
 どんなに近づいても、ひとつじゃないんだ、って。
 わたしはひとりで、これからもずっとそうなんだ、って」

「アンタ……6歳でそんなこと考えてたんか」

Uが呆れたような声を上げました。

「わたしは寒くなって震えた。
 声も出せなくなって、天井の模様をずっと見てた。
 覚えているのはそこまで」

わたしは目をつぶって、息を整えました。

「せやけど……人間やったら、誰でもそうなんちゃうん?
 ひとりひとり別々に生きてるから、
 淋しゅうなって他の人を求めるんやろ?」

「そういうことじゃ、ない……。
 ひとりひとり分かれているってことは、
 頭の中で考えていることを、直接見比べられないってこと。
 わたしが淋しいとか嬉しいとか思うこの感情も、
 他の人と同じかどうかわからない。
 U……チューリングテストって、知ってる?」

「……知らん。Vは知ってるか?」

黙って話を聞いていたVも、首を横に振りました。

「イギリスの天才数学者アラン・チューリングが、
 今から40年以上昔に考えた、『知能』の判定法。
 ディスプレイとキーボードを使って、
 判定役が隣の部屋に居る誰かと文字だけの会話をするの。
 隣の部屋に居るのがコンピューターか人間かは、
 判定役には教えられていない。
 もし、向こう側に居るのがコンピューターなのに、
 判定役がそれを人間と区別できなかったら、
 そのコンピュータには『知能』があるということになる」

話を聞きながら、Uは困惑したようです。

「……すまんけど、その話がどうつながるんや?」

「コンピューターがチューリングテストをパスして、
 『知能』があると認められても、その中身は人間とは関係ない。
 わたしが外から見て人間と認められても、頭の中を覗けない以上、
 それが他の人と同じ『心』なのかどうか、わからない」


分からん・・・・。
2017-10-15 21:18:54 (7ヵ月前) No.1
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