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UやVと話し合った結果、クリスマス会はUのマンションですることになりました。
Uとわたしが料理の支度をし、Vがケーキを持ってくるという分担です。
Vの家が一番広くて環境が整っていますが、
今度だけは三人水入らずでクリスマスを過ごしたかったのです。
Uのマンションに集まるのは、わたしが3年生になってからは久しぶりでした。
クリスマスイブの夕方、Uのマンションに行くと、インターホンにYさんが出ました。
「○○ちゃん? 久しぶりだね。上がって。Uがキッチンで待ってるよ」
「お久しぶりです。帰ってらしたんですね」
「本当に久しぶり。久しぶり過ぎてさっきもUに怒られたところだ」
にこやかに笑うYさんは、眼鏡が変わっていました。
リムレスの垢抜けたデザインです。
着ているセーターも白と黒のツートンカラーで、見違えるようにお洒落でした。
キッチンに行くと、もう下ごしらえは済んでいました。
「U、遅くなってごめん。用意がいいね。これみんなUが準備したの?」
「モチのロンや!
……て言いたいとこやけど、ホンマはお母ちゃんが手伝ってくれたんや」
「やっぱり」
「うわ、見透かしてたんか。イケズやな」
「お兄さん帰ってたんだ」
「さっき、いきなり帰ってきた……。
帰ってくるんか?て訊いてもはっきりせんかったのに」
わたしはエプロンを借りて着けながら、さりげなく尋ねました。
「お兄さん、前より格好良くなってない?」
Uはそっぽを向いて、怒ったような拗ねたような声を出しました。
「……そうやな。
夏休みに帰って来んかったワケがやっとわかったわ」
「夏休み?」
「車の免許取るちゅうて結局夏休みは帰ってこずじまいや。
ちょくちょく帰ってくるてウソばっかしや。
あっちに彼女ができてたんやな」
「本当に? 確かめたの?
恋人が居るんだったら、クリスマスイブには一緒に過ごすんじゃないかな」
「二人っきりのクリスマスは一日早くすまして来たんやろ。
あのセンスは兄ぃのもんやない。
女がおるに決まってる」
「そうかな……」
タイミングの悪いことに、その時Yさんがやってきました。
「U〜〜? なんか食べるモンはないか? 腹減った」
「やらしいな! 入ってくんな!
パーティーが済んで残り物があったら食わしたる」
「え〜〜?」
攻撃的なUに辟易したのか、Yさんが助けを求めるようにわたしを見ました。
「この量は三人じゃ多すぎるよ。お兄さんに分けても十分じゃない?
せっかくのパーティーなんだし……」
Vが来たときに険悪だとパーティーが台無しになりそうで、はらはらしました。
「…………」
Uは頑なに、盛りつけをしているお皿から目を離そうとしません。
Yさんはあきらめ顔で、首をひねりひねり出て行きました。
「U?」
「わかってる。Vが来たらちゃんとするわ」
「ここはわたしのすることあんまり残ってないし、
Vをお迎えに行ってきていい? Vのことだから大荷物だと思う」
「アンタが?」
「お兄さんを借りるね。車の運転できるんでしょ?」
「ええけど……」
居間に行くと、Yさんがベランダで所在なさげに煙草をふかしていました。
「お兄さん、いいですか?」
Yさんはわたしに気が付くと、すぐに煙草の火を消しました。
「あ、○○ちゃん、どうかした?」
「Vを迎えに行きたいんですけど、車を出していただけませんか?」
「いいけど……Uはなんて?」
Yさんはひそひそ声で訊いてきました。
Uを恐れている様子が可笑しくて、わたしは重々しく返事しました。
「安心してください。Uの許可は取ってあります」
ほっとしたようにため息を吐いて、Yさんはベランダから居間に戻りました。
「それじゃ、親父に車のキーを借りてくる。
○○ちゃんもいっしょに来るの?」
「はい、お兄さんとVを二人きりにすると、危険ですから」
「ええっ、そんなぁ……俺は変なことしないよ」
「冗談です。Vのお家に人にご挨拶しておきたいだけです」
マンションの駐車場で、わたしとYさんはセダンタイプの車に乗り込みました。