121:
わたしは、Yさんに電話をかけることにしました。
ぷるる、ぷるる、がちゃと音がして、聞き慣れたUの声が聞こえてきました。
「はい、(Uの名字)です。どちら様でしょうか」
Uの気取った口振りに、わたしは思わず吹き出しそうでした。
でも、もしかしたら、U独特の冗談かもしれません。
わたしはそれに付き合って、いつも以上に丁寧に口上を述べました。
「もしもし。夜分遅く失礼します。
××○○と申します。Yさんはいらっしゃいますか?」
「あら、Uのお友達ね。いつもUが迷惑かけてごめんなさい。
ちょっと待ってて」
電話の向こうで、「Y、でんわぁー!」と呼ぶ声がしました。
わたしは腋の下に、冷たい汗をかいていました。
「……もしもし?」
「あ、○○です。こんばんは」
「○○ちゃん? どうしたん?
こんな時間に……いや、全然構わないけど」
「今の、お母さんですか?」
「そうだけど、どうかした?」
「Uと、声がそっくりで、びっくりしました」
「ぷはははは、電話だとたまに間違われるみたい」
「……あの……写真の、ことなんですけど」
わたしが用件を切り出すと、お兄さんの声が真剣になりました。
「あ、ああ、考えてくれたんだ。
……あ、ちょっと待って」
声が途絶えました。しばらくして、
戻ってきたお兄さんの声は、やっと聞き取れるぐらいに低められていました。
「……あ、ごめん。
Uが近くにいるから、その話、悪いけど明日にしてくれない?
明日は教会に行くんでしょ?
礼拝の後、お昼前に、この前の場所に来てくれる?」
「はい」
日曜日のお昼前には、日曜学校がありますが、仕方がありません。
VとUが教会にいる時間なら、お兄さんと内密に会うことができます。
電話を切ってから、断る理由を考えていなかったことに気づきました。
お兄ちゃんがダメと言ったからダメ、では子供じみています。
かといって、Uにもまだ話していないお兄ちゃんへの気持ちを、
お兄さんに詳しく説明するわけにもいきません。
わたしは、思案しながらベッドに入りました。
翌日の午前中、いつものように教会の礼拝が終わった後、
わたしはVとUに言いました。
「今日は、用事があるから、先に帰る」
「えー? 今日は遊べないのー?」
Vが、頬をふくらませました。
Uは、じっと値踏みするような目で、わたしを見ました。
「○○……なんか、隠し事してへんか?」
「…………」
わたしは、視線を逸らせました。
別に何も悪いことはしていないはずでしたが、なんだか、
お兄さんと共謀してUを騙しているようで、気が咎めたのです。
ファミリーレストランに着くと、お兄さんはもう待っていました。
「あ、○○ちゃん、よく来てくれたね!」
約束したのですから、来て当たり前です。
「はい。こんにちは」
「まあまあ座って」
向かい合わせに座って、紅茶をオーダーしました。
「○○ちゃん、お昼食べないの?」
「家で食べます」
断るつもりなのに、長々と顔を突き合わせる気にはなれませんでした。
紅茶が来て、しばらく沈黙が続いてから、お兄さんが水を向けてきました。
「えっと……写真の話、どうしようか?」
わたしは、単刀直入に答えました。
「あの……やっぱり、お断りします」
「あ……そうなの……」
お兄さんは、しょぼんとしました。
「ああいうコスプレとかが、気に入らないかな?
なんなら、普通の衣装でも良いんだけど」
「いえ、コスプレは、なんとも思いません。
その……わたし、好きな人が居ます」
「え?」
お兄さんは、口をあんぐりと開けて、固まりました。
わたしは、お兄ちゃんを「好きな人」と口にしたせいか、思わずにやけました。
「その人に、記念写真を送ったら喜ぶ、と思いました。
でも、話してみたら、絶対ダメだって……」
「あ……そ、そうなんだ」
お兄さんはしばらくどこか遠くを見て、ため息をつきました。
「それじゃ、仕方ないね」
その時わたしは、窓ガラスに目をやって、見知った顔に気づきました。
突き刺すような視線でわたしを見ている、Uの憤怒の表情でした。
すごいですね、いろいろ。。。
2016-01-02 00:26:49 (8年前)
No.1
あーよかった・・・・。
2017-10-15 21:10:22 (6年前)
No.2