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キキキと音を立てて急停車したYさんに、Uの声が飛びました。
「遅いやん!」
「無理言うなよ……あれ、○○ちゃんの自転車は?」
「あの……わたし、バスで行くつもりで」
「無茶言うてんのはどっちや。
○○は体育もずーっと見学やねんで、自転車乗れるわけないやん!
そんな無神経なコトしか言えんアホは死んだほうがマシや」
相変わらず、UはYさんに遠慮というものがありません。
「……うぐ。すまん。ごめんね、○○ちゃん」
「気にしないでください」
「ほな行こか」
Uの宣言に、Yさんはこわごわ尋ねました。
「……行くって、どこへ?」
「駅前行くって言うたの忘れたんか? 脳味噌腐ってへんか?」
「それはわかってるけど、自転車1台しかないぞ。
駅前で落ち合うのか?」
「3人で乗って行けばエエやん。わたしも○○も軽いしぃ、
2人ぐらい増えても楽勝やろ? ○○、アンタが先に乗り」
「乗るって、どこに……?」
「詰めたら荷台に乗れるて。
アンタが落ちんように後ろから支えたるわ」
「3人乗りは、危なくないかな……?」
「兄ぃを信用し。万が一転けてもアンタだけは守ったる」
「お前……信用してないぞそれ」
Uに押されるようにして、YさんとUのあいだに挟まれました。
サンドイッチの具になったような感じです。
自転車が走り始めると、少し左右にふらつきました。
わたしは恐怖にかられて、ぎゅっとYさんの腰にしがみつきました。
「しっかりせんかーい!」と、UがYさんの頭を叩きました。
道路の段差を越えるとき、衝撃が尾てい骨にまともに伝わりました。
お尻の肉が薄いので、クッションの役目を果たさないのです。
「痛っ……」
「もっとていねいに走り。○○が痛い言うてる」
「あ、ごめん。ちょっと遠回りになるけど、裏道を行くね」
裏道は一種の遊歩道で、表通りと違って道路に段差がありませんでした。
3人を乗せた自転車は、重さに軋みながらも滑るように進みました。
駐輪場の手前で自転車から降りると、お尻が少し痺れていました。
もう、約束の時刻が迫っていました。
「お兄さん、ありがとうございました。
あんまり時間がありません。
Uと2人で、先に喫茶店に行って、場所を取ってください」
「え? ○○ちゃんは?」
「わたしはcさんを連れて行きます」
「○○、そら危ないで。アンタのほうがどっか連れてかれるんと違うか」
「そうだよ。3人で行こう」
「いきなり3人で行ったら、cさんを信用してないみたいじゃないですか」
「アンタは信用してるんか!」
「お兄ちゃんがわたしのことを頼んでくれた人だもの。
わたしに無茶はしないはずだよ。
お兄ちゃんが信用できないって言うの?」
「……そういうことなら仕方ない。
でも遅くなるようだったら見に行くからね、それぐらいはいいだろ?」
「はい、それじゃ」
わたしは2人から離れて歩きだしました。
ロータリーの近くに行くと、cさんが花壇の縁に座っているのが見えました。
cさんはわたしの姿に気がついて、煙草を足元に捨て、踏み消しました。
「よう、時間ぴったりだな」
わたしは返事をしないで、cさんの足元にしゃがみました。
数本の吸い殻をつまみ上げ、ポーチからハンカチを取り出して包みました。
「おい、なにやってんだお前!」
「掃除」
「嫌味か? 手が汚れるぞ」
「道が汚れるよりはマシです」
「…………」
cさんにはわたしの行為が理解できなかったらしく、言葉が途切れました。
「こっちです」
わたしは先に立って歩きだしました。cさんはすぐに隣に並びました。
「どこに行くんだ?」
「パフェが美味しい喫茶店です。もう場所を取ってあります」
「どうしても俺にパフェを食わせたいのか?」
「苦情は食べてから言ってください。
食べれば、きっと美味しいとわかるはずです」
「お前みたいな変な女、見たことねぇよ」
面白がっているのか、呆れているのか、よくわからない口調でした。
喫茶店に入ると、cさんの顔が途方に暮れたようになりました。
「なんで俺はこんなとこにいるんだ? 女ばっかりじゃねぇか」
「男の人も居ますよ。ほら」
UとYさんが並んで座っている、4人がけのテーブルに案内しました。
わたしが座っても、cさんはまだ立ったままでした。
「どういうことだ、これは?」