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背景パネルを落とした男子が、悲愴な表情になりました。
「どうしよう……俺……」
「責任感じるのはわかるけど……不安定な構造が原因だと思う。
設計したわたしが、一番責任重いよ」
「そやけど! パネルのせいで舞台がパーになったら、
aになに言われるかわからへんで」
「劇が終わるまで、パネルが保てば良い」
「保つかどうかわからへんのやろ?」
「……みんなで支えましょ」
「支える?」
「パネルをめくる係のUを除いて、4人で後ろから支柱を持って支えるの。
人力で補助すれば、折れかかった時に倒れるのを防げると思う」
腕組みしていた美術部員の男子が、うなずきました。
「……それしかないか」
Uが眉根を寄せて、わたしに問いかけました。
「○○、アンタには無理と違うか? ずーっと立ちっぱなしやで?
アンタは腕力ぜんぜんあらへんし」
「わたしの力じゃ、あんまり役に立たないかもしれないけど、
劇が終わるまでの時間ぐらい、だいじょうぶだと思う。
それに、他の3人は男子だから、わたしに力が無くてもなんとかなるよ。
わたしの責任なのに、なんにもしないわけにはいかないでしょ?」
「そうか……それやったら、わたしも支えたる」
「Uは幕間にパネルをめくる係でしょ?」
「そんなん幕間にしか用あらへん。アンタは椅子にでも座っとき。
幕間だけわたしと替わってアンタが支えたらエエんや」
「……ありがとう。お願いする。
あと、このこと、先生と監督のaさんに報告しなくちゃ。
万一の危険を警告しておかないと」
「そらヤバいで。aになに言われるかわからへん」
「黙っていたら、余計に言われるんじゃない?」
パネルを落とした男子が、沈黙を破って声をあげました。
「俺、行ってくるよ」
「わたしも行く」
「アンタが行ったら火に油やで? aに目ぇつけられてんのに」
「気が進まないけど、仕方ないよ。わたしの責任なんだから」
「それやったらみんなで行こ。アンタのアイデア認めたんは係全員や」
男子も全員うなずきました。
「aさんはどこかしら?」
「体育館の裏で最後のリハーサルしてるんと違うか?」
パネルを落とした男子が先頭に立って、
全員で体育館の舞台の袖の横にあるドアから出ようとした時、
ちょうど入ってきたaさんと鉢合わせしました。
わたしたちは5人とも驚いて、棒立ちになりました。
「あなたたち、どこに行くつもり?
大道具の準備はできてるんでしょうね」
機先を制せられて、前に立っていた男子が口ごもりました。
「あー、それが……」
「みんなでaさんに、会いに行くところだったの」
「もう時間がないっていうのに、なんの用?」
「簡単に言うと……背景のパネルを、運んでいる途中で落として、
壊してしまったの」
「なんですって!」
「応急修理はしたけど、劇の
「冗談じゃないわよ! 劇が失敗したらどうしてくれるの?」
「壊れないように、劇のあいだずっと、後ろから大道具係全員で支える」
「危なっかしいわね!
パネルが倒れて劇が無茶苦茶になったら、責任取ってもらうわ」
たまりかねたのか、Uが口を挟みました。
「なんで○○ばっかりに言うのん。大道具係全員の責任やで」
aさんはUをキッと睨みつけました。
「だいたいパネルをあんな変な構造にするから、
落としたぐらいで壊れるんじゃない。だれが設計したの?」
大道具製作の進捗状況は、男子を通じて何度も報告していました。
設計したのがだれか、aさんが知らないのは不思議でした。
「わたし」
aさんは勝ち誇ったように言いました。
「やっぱり××さんのせいじゃない。
みんなでせいぜい頑張って支えてちょうだい。
万が一にも倒れないようにね」
言うだけ言って、aさんは
重苦しい雰囲気があたりに立ちこめる中、
今までずっと黙っていた、小柄な男子が口を開きました。
「こうなったら、死んでも支えるしかないな」
全員が大きくうなずきました。
その直後、舞台の袖に出演者たちと担任が入ってきました。
白いドレスに身を包んだVは、ひときわ輝いて見えました。
「Uちゃん、○○ちゃん、見ててねー?」
「ごめんV、わたしたち、演技を見られなくなっちゃった」
Vの顔が、みるみるこわばって、半泣きになりました。
「ええーっ、台詞わすれちゃったらどうしよー?」