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「○○、どこ行くんだ?」
「こっち」
神社のすぐそばで近所の人たちが集まって、参拝客に甘酒を振る舞っていました。
手を火傷しないように2個重ねた紙コップに、熱い甘酒を注いでもらいました。
友達の分もということで、わたしが2個、お兄ちゃんが4個、左右の手に持ちました。
足許に注意しながら、そろりそろりとUたちが待っている方角に進みます。
近くまで行くと、Vが歓声を上げました。
「あーなにそれー?」
「甘酒。あったまるよ。着物にこぼさないでね」
銘々が1個ずつコップを持って、寒空の下で輪になりました。
Yさんが、コップを高く掲げました。
「乾杯!」
「乾杯?」
神社の雰囲気にそぐわない言葉を聞いて、わたしは思わず訊き返していました。
それで途切れかけた勢いを、お兄ちゃんがフォローしてくれました。
「乾杯に賛成。Xさん、音頭をとってください」
「え? ボクが? それじゃ……みんなの健康と幸せと、年の始めを祝して……」
「かんぱーい」
6人の声がハモりました。
熱い甘酒を飲むと、お腹の中からじんわり温まってきました。
わたしはぼんやりと、1年前のことをを思い出しました。
あのときわたしに甘酒をくれたR君は、今どこでどうしているのだろう、と。
「ん? ○○、どうかしたか?」
話に加わらず、ぼうっとしていたわたしに、お兄ちゃんが耳打ちしました。
「あ……なんでもない。去年も初詣で甘酒飲んだこと、思い出しただけ」
「そっか……。去年はお前、1人だったんだな。ごめん」
「R君とここで会ったから、2人」
「R君とは結局、友達にはなれなかったんだったな……」
「うん」
わたしからR君に話しかけることもなく、たまに学校の廊下で見かけたりしても、
お互いにちらりと見る程度になっていました。
どうして急に疎遠になったのか、R君をつかまえて、
その理由をわたしのほうから尋ねるべきだったのかもしれません。
でもわたしには、遠ざかって行く人を、引き留めるような価値が自分にあると、
思えなかったのです。
「でも、今年は大勢だ」
お兄ちゃんが、わたしの大好きな笑みを浮かべました。
「あったまるねー」
「ホンマに」
いつも通りはしゃいでいるVも、珍しく寡黙なUも、満足げでした。
わたしは、去年やおととしのお正月と比べて、今年はなんて幸せだろう、
と思いました。
「それじゃ……そろそろ帰りますか? 足許が冷えるといけないし」
お兄ちゃんが、みんなに声をかけました。みんなも賛成したので、
お兄ちゃんとわたしが先頭に立ち、2列になって歩き出しました。
お兄ちゃんは神社を出ると、また甘酒を配っている人だかりに歩いて行きました。
「お代わりするの?」
「いや、Vちゃんのお父さんに。運転手役で、留守番だっただろ?」
ワゴン車は、神社から少し離れた路上に停まっていました。
わたしたちが歩み寄っていくと、Vのお父さんは車をこちらに動かしてきました。
お兄ちゃんが運転席側の窓に近寄ると、窓ガラスがスライドしました。
お兄ちゃんがお父さんになにか言うと、お父さんは笑顔になりました。
みんなが車内に入って、シートベルトを締めていると、お父さんが振り返りました。
「いやー、男の子っていいね。娘も可愛いが、私は息子も欲しかったんだ。
だれか息子になってくれないかな?」
Vのお父さんの爆弾発言に、お兄ちゃん、Yさん、Xさんの動きが一斉に止まりました。
「そうだねー。わたしもお兄ちゃんが欲しかったんだー」
とくにXさんは、Vに腕を抱きしめられて、笑顔が引きつっていました。
「なに反応してるんや!」
「痛いだろっ!」
YさんはUに太股をつねられたらしく、今年最初の兄妹喧嘩を始めました。
わたしが振り向くと、お兄ちゃんは、嬉しいような寂しいような、複雑な表情でした。
車のヒーターが効いてきて、暑いぐらいの暖かさに、わたしは眠くなってきました。
でも、うとうとし始める前に、わたしの家に着きました。
わたしとお兄ちゃんは車から降り、肩を並べてお礼を言って、
Vのお父さんの車を見送りました。
「眠いのか? なんだかふらふらしてるぞ?」
「うん、ちょっと」
「早く着替えて寝るか」
わたしは自室に戻って、重かったコートやセーターを脱いで、
ねこさんパジャマに着替えてから、お兄ちゃんの部屋に行きました。
「お兄ちゃん、入って良い?」
「ああ」
わたしが中に入ると、お兄ちゃんは笑顔になりました。
「そのパジャマ、気に入らないのかと思ってた。あれから着てなかっただろ?」
「毎日着ると、早く傷むから」
「パジャマは大事に着るもんじゃないだろ」
お兄ちゃんは苦笑した後、まじめくさった顔で付け加えました。
「あ、それからな。そのパジャマの時は、『な』を『にゃ』と発音するのがルールだ」
「ルール……そうにゃの?」
「そうそう」
言いながら、お兄ちゃんは爆笑しました。
お兄ちゃんがにゃといえとか言ってきたらきもいわ
2017-04-18 17:01:50 (7年前)
No.1