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「そんなら……
○○、アンタはなんでそんな寂しい目をしてるんや?」
「え?」
「……わたしの目はごまかされへん。
わたしらの前で遠慮せんでええ。
泣きたかったら思いっきり泣いたらええやん」
目をつぶっても、涙は湧いてきませんでした。
むしろ、わたしの胸にとりすがって泣いているのは、Vの方です。
Vの背中を撫でながら、わたしは答えました。
「もう、いっぱい泣いたから……涙は出てこないみたい。
お兄ちゃんが死んじゃったんじゃないか、って思ったら、
なにが起こっても、それよりはずっと良い。
ありがとう。二人とも、わたしの代わりに泣いてくれて」
瞳に涙を溜めて、Uも肩を震わせていました。
張り裂けるように、胸が痛みました。ただ、痛いだけです。
わたしは知っていました。本当に胸が裂けてしまうことなどない、と。
半月ほど経って、ポケットベルが震えました。
「テ゛ンワシテイイカ?」
わたしは家に両親が居ないことを確かめてから、返信しました。
「イイヨ」
電話がかかってきて、久しぶりにお兄ちゃんの声が耳に響きました。
「gと二人で、そっちに帰るよ」
「もう、平気かな? お父さん、まだ怒ってるみたいだけど」
「いつまでも、こっちに厄介かけるわけにはいかないさ。
他に行くところもないしな。
ガタガタ言うようだったら、また家を出ればいい」
「それじゃ……待ってる」
gさんはどんな人だろう……わたしの胸は不安に締め付けられました。
お兄ちゃんがgさんを連れて帰宅したのは、その翌日でした。
ドアが開く音を聞きつけて、わたしは玄関に急ぎました。
「お帰りなさい、お兄ちゃん」
gさんがひとりで、三和土に立っていました。
初めてgさんと目が合って、わたしは息を呑みました。
「あ……あの……○○です。はじめまして」
gさんは口を閉ざしたまま、じっとわたしを見つめました。
前に病院でお見舞いしたときにはわからなかった、
底が知れないほど澄んだ、
周りの空気が帯電したように、ぴりぴりした刺激を感じました。
そのまま立ちすくんでいると、gさんの背後にお兄ちゃんが現れました。
「ただいま、○○。隣のおばさんに捕まっちゃって困ったよ。
……? もう自己紹介はしたのか?」
「えっと……これから」
「g、これが妹の○○だ。仲良くしてやってくれ」
不意に、gさんの雰囲気が一変しました。
楽しげな笑みを浮かべ、瞳がきらきらと輝きだしました。
「よろしくね。○○ちゃん」
わたしをちらっと見てから、悪戯っぽくお兄ちゃんの顔を覗き込み、
自然な仕草でうなじに片手を伸ばしました。
「△△クン、○○ちゃんって、わたしに似てるね。
もしかして、シスコン?」
「なっ、なにを言うんだ?」
「ひょっとして……わたしは彼女の代わりだったりする?」
「そんなわけないだろ。お前と○○はぜんぜん違うよ」
「だったらいいけど、もしそうじゃなかったら……」
「そうじゃなかったら?」
「殺しちゃうかも」
そう言って、お兄ちゃんの首をぎゅっと絞める真似をしました。
わたしは唖然として、二人のじゃれ合いを見ていました。
さっきの、人見知りしていたgさんとは別人のようでした。
「こんなところでバカやってないで、上がろう」
わたしは慌てて二人分のスリッパを用意しました。
「あっ……どうぞ、gさん。いらっしゃいませ」
お兄ちゃんがわたしの方を向いて、言いました。
「○○、いらっしゃいませ、じゃなくてお帰りなさい、だ。
今日からここは、gの家でもあるんだからな。
それから、gさん、じゃなく
「あ……。ごめんなさい。お帰りなさい…………義姉さん」
お兄ちゃんはgさんの手を引いて、階段を上がっていきました。
わたしの目の前にはまだ、吸い込まれそうになるほど印象的な、
gさんの瞳の残像が映っていました。
きっつ
2017-07-23 13:30:04 (6年前)
No.1