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道程は、途中からカーブの多い細い道に変わり、すっかり酔ってしまいました。
お兄ちゃんの膝を枕にして、ぐったりしていると、ますます道が悪くなりました。
わたしはお兄ちゃんに膝に戻すわけにいかず、吐き気を堪えるのに必死でした。

お兄ちゃんが運転席に声を掛けました。

「I兄ちゃん、どっかで休んだ方がええんとちゃうか?
 ○○の具合が悪いみたいや」」

「○○、寝とるかと思っとったら酔うたんか?
 ……途中で休むとこないしなぁ。
 早う着いて横になった方がマシやろ
 なるべく静かに運転するさかい、辛抱しいや」

車が止まって、K姉ちゃんとL姉ちゃんが降りました。
二人は、I兄ちゃんとJ兄ちゃんの隣の家だそうです。

また少し走って、お婆ちゃんの家に着きました。
わたしは、お兄ちゃんの手を借りて、車から降りました。

山を切り崩して、昔風の日本家屋が建っていました。
父方のお婆ちゃんの家も大きかったのですが、母方のお婆ちゃんの家は、
まるでお屋敷のようでした。

K姉ちゃんとL姉ちゃんの家は、隣だというのに向こうの山の中でした。

お爺ちゃんとお婆ちゃん、それにI兄ちゃんとJ兄ちゃんの両親である、
M姉ちゃん夫婦が出迎えてくれました。

わたしは一人で立って、なんとか自己紹介しました。
わたしの具合が悪かったので、すぐに布団を敷いてくれました。
乗り物酔いと疲れが出たのか、わたしはお風呂にも入らず寝てしまいました。

目が覚めると、すっかり夜になっていました。
起き出して、居間に行くと、十畳敷きぐらいの続き部屋の襖が取り払われて、
大広間になっていました。

壁の三分の一を占める大きな仏壇があり、お線香の香りしました。
立派なちゃぶ台の上に、色々な料理が載っています。
お兄ちゃんが、お爺ちゃんやいとこたちに混じって、お酒を飲んでいました。

お爺ちゃんに言われて、仏壇の前に座り手を合わせました。
改めて挨拶すると、お爺ちゃんはわたしにも、ビールを勧めてきました。
お兄ちゃんが、それを横取りして飲みました。

「○○にはまだ早い」

中学生のお兄ちゃんがビールを飲むのも、まずいのではないかと思いました。
お爺ちゃんは、焼酎のお湯割りを飲んでいました。

わたしがお酌をすると、お爺ちゃんは真っ赤な顔で自慢話を始めました。
この家は、裏の山の木を伐って建てたそうです。

M姉ちゃんがやってきて、目を釣り上げてお爺ちゃんに怒鳴りました。

「なに子供にクダ巻いてるん!」

わたしは、M姉ちゃんに手を引かれて脱出し、お風呂に入りました。
お風呂は、檜造りで、良い匂いがしました。

J兄ちゃんのお古の、浴衣のような紺色の寝間着を着ました。
J兄ちゃんの名前が、襟の所に縫い込んでありました。

客間に戻って、押し入れからもう一組布団を出し、隣に敷きました。
あまり使われていない客間は広すぎて、静かで、怖いぐらいでした。

いつもならもう眠っている時間ですが、ずっと寝ていたせいか、眠気がしません。
布団の上に座って、じっとお兄ちゃんの帰りを待ちました。

もともと、待つのは苦手ではありませんでした。
わたしはずっと、待ち続けていたようなものです。
もうすぐに、会える、と分かっていれば、苦になどなりません。

でも、その時は、お兄ちゃんの事だけでなく、他にも考える事がありました。
HクンやF兄ちゃんの顔が、頭をちらちらよぎりました。
考えても仕方がないと思っても、頭を離れません。

ふと、足音がしました。
襖が乱暴に開かれて、お兄ちゃんが入って来ました。
なんだか、様子が変でした。

お兄ちゃんは目を半分ぐらい閉じて、ゆらゆら揺れていました。
わたしは立ち上がって、歩み寄りました。

「……お兄ちゃん、だいじょうぶ?」

「ん……? ○○ー、居たのかぁー」

お兄ちゃんが、そう言いながら抱きついてきました。
強烈なお酒の匂いがしました。
わたしは、抱き締める力の強さに息が止まりました。

二人とも足がもつれて、後ろの布団に斜めに倒れ込みました。
まともに倒れていたら、押しつぶされていたかもしれません。

お兄ちゃんの腕が緩んで、やっと息がつけるようになりました。
わたしはパニックに陥って、身を硬くしていました。

腕の中から抜け出して、お兄ちゃんの顔を見ると、寝入っていました。
わたしは大きなため息をついて、その場に座り込みました。

「もう、しょうがないなあ」という憤慨と、
「やっと来てくれた」という安堵が、交錯しました。


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