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手のひらを強く握りしめると、お兄ちゃんの顔にハッと表情が戻りました。

「……お兄ちゃん、寝惚けてる?」

「ん、ああ……すまんすまん」

お兄ちゃんが振り向いて、にこっと笑いました。いつもの笑顔でした。
わたしはホッとしましたが、なかなか動悸が収まりませんでした。

目的地に着いて外に出ると、小さな神社なのに、それなりの人出でした。
近所の人たちが集まっているのか、挨拶を交わす様子が見られました。

「おにーちゃん、たすけてー」

慣れない草履だと歩きにくいのか、Vが大げさにふらついて、
Xさんの腕に抱きつきました。Xさんは否応もなく、照れくさそうでした。

「U、掴まれ」

ちょこちょこ小股であるくUに、Yさんが手を差し出しました。
Uは一瞬Yさんの顔を見て、すぐに顔を伏せてその手を取りました。

「○○、俺たちも行くか」

お兄ちゃんのほうから、わたしの手のひらを握ってきました。

「うん」

6人が、2人ずつペアになって、神社の鳥居をくぐりました。
ふと、1年前にR君と出会った石柵が目に入りました。
わたしは思わず立ち止まってしまって、お兄ちゃんに引っ張られました。

「ん? どうした?」

お兄ちゃんが振り向いて、怪訝そうに訊きました。

「……なんでもない」

少し遅れて賽銭箱の前に着くと、UとYさんが柏手を打っていました。
肩を並べて、神妙に願い事をしているようです。

「○○、お前はなにをお願いするんだ?」

「……なんにも。わたし、神様は信じてないから」

お兄ちゃんが立ち止まりました。

「え? まぁ……俺も信じてるってわけじゃないけど、
 願い事しないんだったら、初詣に来てなにをするんだ?」

「習慣……かな。それとも雰囲気を楽しむため」

「お前、人混みは苦手だろ?」

「苦手だけど……たまにはその中に入っていかないと、
 どんどん人から遠ざかってしまうみたいな気がする、のかな?
 こういう、みんなおめでたい様子の人ばっかりなら、
 そんなに嫌じゃない。幸せそうな人が居るって、良いね」

「お前は……そういう人見て、寂しくないか?」

自分自身のことより、お兄ちゃんの口調のほうが寂しげに聞こえました。

「うーん……どうだろ? 幸せな人を見てると、胸が痛くなるけど、
 それはただ痛いだけ。幸せな人が居るってことは、わたしもいつか、
 そうなれるかもしれない、ってことでしょ?」

「ん……そうだな」

「お兄ちゃんは、行かないの?」

「俺もやめとく。お賽銭で願い事が叶うなんて、ホントは信じてないしな」

お兄ちゃんはわたしに付き合ってくれてるだけかもしれない、と思いました。
それでも、寒さが気にならないぐらい、胸が温かくなりました。

「もしかして……Vちゃんもお前と同じか?」

「え?」

お兄ちゃんに言われて辺りを見回すと、Vは賽銭箱には近寄りもしないで、
Xさんを引っ張ってうろうろ歩いています。

「VとXさんはわたしとは逆」

「逆?」

「2人ともクリスチャンだから、偶像崇拝はしないの。
 たぶん……Vはお祭りのつもりで来てるんじゃないかな。
 もっと大きな神社だったら、夜店が出てるんだけどね」

「あはははは」

わたしも釣られて、くっくっと笑いました。
2人でそうしていると、VとXさんがわたしたちを見つけました。

「あーこんなところにいたんだー。なにしてるのー?」

わたしとお兄ちゃんは、参拝客を避けるようにしているうちに、
境内の隅を囲った石柵のそばまで来ていました。

「Vの噂話」

「えー? ひどいよー。わたしのこと笑ってたんでしょー?」

「笑ったのは事実だけど、それはVがとっても幸せそうだ、って話」

わたしは、とびきり自然に微笑むことができました。

「ほんとにー?」

「それにしても、V、初詣に来るのを、よくお父さん許してくれたね」

Vの家は、3代続いたクリスチャンです。

「ほんとはねー。この振り袖を着て、外を歩いてみたかったのー。
 信じてるのはイエス様だけだよー?」

「ふふふ、そんなことだろうと思った」

わたしは笑いをこらえきれませんでした。
UとYさんも、わたしたちを見つけて歩み寄ってきました。

「あ、そうだ、ここで待ってて」

「どうしたのー?」

わたしはお兄ちゃんの手を引いて、早足で歩きだしました。


くっくクックピザくっく
2016-05-14 12:43:57 (2年前) No.1
くっくって笑い方の人あんまいない
2017-04-18 16:59:26 (1年前) No.2
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