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小学校4年生まで。
それがわたしにとって一番幸せな時期だったのかもしれません。
まだ世間の事も知らず、大人の事情も知らず、ただ本を読み、
お兄ちゃんと遊ぶだけで暮らして行けたのですから。

お兄ちゃんは中学校に上がるとますます格好良くなりました。
ギターを弾き、剣道部に入って腕が太く逞しくなりました。
わたしはお兄ちゃんと同じ小学校に通えなくなるのが残念でなりませんでしたが、
今思えば小さい子と遊ぶのが恥ずかしい年頃だっただろうに、
お兄ちゃんの優しさは少しも変わらず、
休みの日には校則で禁止されている喫茶店に連れて行ってくれて、
チョコレートパフェをおごってくれたり、
買い物に付き合ってくれたりしました。

喫茶店に初めて入った時は、
チョコレートパフェの美味しさにびっくりして、
たった10分で食べ尽くしてしまい、
「バカ、こういう所は場所代も料金の内なんだから、
 ゆっくり味わわないと駄目だろ」
と叱られましたが。

お兄ちゃんがわたしをあの家から連れ出してくれた時、
どういう気持ちだったのかはよく分かりません。
単に長男の義務として、
引っ込み思案のわたしを放っておけなかっただけかもしれません。

買い物に付き合ってくれたというのも、
お兄ちゃんに言わせれば、
「おまえのセンスは最悪だからな、放っておくと何選ぶかわからん」
ということでしたし。
実際、わたしのファッションセンスは我ながら最悪で、
色のコーディネートというものが上手くできないのです。
お兄ちゃんは、いつもとてもシックで垢抜けた格好をしていました。

今こうして思い出すだけで、心の中があたたかくなります。
でも、わたしのささやかな幸福は、そう長くは続きませんでした。


ワクワク
2015-05-01 15:47:52 (3年前) No.1
324回目も楽しみにしてます!
2017-08-30 14:04:47 (1年前) No.2
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