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わたしはそのまま、文化祭終了まで、保健室でサボっていました。
布団にくるまって安穏としていると、UとVの2人が迎えに来ました。

「○○、起きてるか? 調子はどうやのん?」

わたしは掛け布団から顔だけ出して、答えました。

「もうだいじょうぶ。投票の結果はどうだった?」

「劇のグランプリは3年に持って行かれたわ。
 まぁしゃあない。わたしも観とったけど、上手いもんやった。
 それより、アンタも打ち上げに来るやろ?」

文化祭終了後に、クラスの有志で打ち上げをすることになっていました。
わたしは、天井を見つめました。

「わたしは……やめとく」

「えー? わたしも行くんだよー?」

「そや。それにアンタがうへんかったら、逃げたと思われるで」

「それで、良い」

「エエことあるかい! aみたいなン威張らせといて悔しないんか?」

Uの声のほうが、よっぽど悔しそうでした。
どういうふうに言えば、今のわたしの気持ちがUに伝わるんだろう……
そう考えて、ハッとしました。

わたしは、天井を見つめたままで、言いました。

「U、わたし、いま気がついた」

「……? なんのことや?」

「わたし、恐いんだ」

「恐い……て、aがか? ウソやろ?
 アンタaが興奮しとっても平然としてるやないか」

「そう見えるだけ。そっか……Uにもわかってなかったんだ。
 わたしもいま、やっと気づいたところだから、ムリないけど。
 わたし、他人ひとの感情が恐い。うまく理解できないせいかな。
 剥き出しの感情をぶつけられると、どうして良いのかわからない」

「……信じられへん。今日かて、aが嫌味言うてるとき、
 アンタは涼しい顔してaを見返してたやんか」

「あれは……視線も表情も動かせなかっただけ。
 考えてみたら、Z君の時も、b君の時も、同じだった。
 強い感情に晒されると、わたしの体は機能を停止しちゃうみたい。
 今まで、1人で居たほうが落ち着く、って思ってた。
 ……そうじゃない。他人が恐かっただけなんだ。
 敬遠されてる、って思ってたのも、ホントはわたしが拒絶してたのね」

わたしのつぶやきは、独り言のようになってきました。

「……そんなら、わたしらのコトも邪魔やったんか?
 わたしは○○にぎょうさん酷いコト言うたで?」

「邪魔じゃない。Uは口が悪いけど、悪意は無いでしょ?
 最初からそうだった。だから、嫌な気持ちになったことない。
 2人にはホントに感謝してる。
 2人が居なかったら、今のわたしは空っぽになってたよ」

掛け布団の下の手のひらを、誰かの手が握りました。Vでした。
Uが気遣わしげに尋ねてきました。

「わたしがアンタに悪い噂のコト教えた時も、ホンマは傷ついてたんか?」

「あれは平気。
 噂話を聞いても、噂を流した人の顔も声も届かないでしょ。
 そんなのは本に書いてあることと同じ。
 わたしには関係ない、って思えば無視できる。
 でも、面と向かうとダメね……。
 ごめんね。Uが思ってるより、わたし弱いみたい」

「○○!」

名前を呼ばれて振り向くと、Uが顔をしかめていました。

「わたしは、アンタが弱いなんて認めへんからな!
 ちょっとしんどぉて気ぃ弱ぁなってるだけや。
 アンタが打ち上げ出ぇへんのやったら、わたしもやめとく」

「わたしもー」

「……Vは今日の主役でしょ?
 打ち上げに出ないわけにはいかないよ。
 UはVに付いててあげて。わたしは1人で帰れる」

「そんな弱々しい顔してるアンタを1人で帰されへん」

「ふふ、U、さっきと言ってることが違うよ。
 うん……わたし、いま気づいたこと、やっぱりショックだった。
 でもね、お兄ちゃんが遠くに行ってから、UやVに会うまで、
 わたしずっと1人だったから、1人は平気だよ」

わたしはUとVに微笑んで見せました。
2人とも、言葉を失っているようでした。

「……どうかした?」

「アンタは……アンタは、なんでそんなことスラッと言えるんや?
 やっぱりアンタは強いで。
 もうエエ。1人で帰り。でもな、覚えときや。
 ホンマにしんどなったら、わたしでもVでも頼るんやで?
 アンタ見とったら、スーッと消えていきそうで恐いわ」

「U……わたし幽霊じゃないよ」

「冗談とちゃう! しんどかったら、明日は休んで寝とくんやで?」

わたしがうなずくと、2人は出ていきました。
わたしのすることは、保健室に鍵をかけてキーを職員室に持っていくだけです。

1人で帰り道を辿りながら、思いを巡らせました。
新しく発見した自分の弱点は克服できるのかどうか、と。

具体的な方策は見当もつきませんでしたけど、
これが現実なら、なんとかやっていくしかないな、と思いました。

この後、お菓子やジュースは黙認されていた打ち上げに、
こっそりお酒を持ち込んでいた男子が居たことが先生にバレて、
打ち上げの参加者全員が体育館で正座させられて説教されたとか、
Vの常人離れした性格を知らない他のクラスや上級生の男子に、
お姫様を演じたVが追いかけ回されて、文字通り逃げ回ることになったとか、
ちょっとした事件がありましたけど、それはまた別のお話です。


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