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その鞄は膨らんでいて、ずっしり肩に食い込んでいました。
これから遊園地に行くのに、どんな荷物が必要なんだろう、と不思議でした。
電車は空いていて、4人掛けの座席を占領できました。
お兄さんが奥の窓際、Vがその隣、Uが向かい側に陣取りました。
わたしは最後に、Uの隣の座席に腰を下ろしました。
「お兄さん、おっきい鞄ですねー」
Vがいつの間にか復活していました。
「え、そうかな?」
「どうせパソコンとか訳のワカランもんをごちゃごちゃ入れてるんやろ?
外でそんなん使う暇あらへんのに、なに考えてるん?」
と、Uが呆れたように言いました。
「そんなことあらへん。今日はちゃんと、考えてきたんや」
お兄さんが鞄の口を開けて、中身を出しました。
大きい鞄の中にはさらに、小さい鞄がいくつも入っていました。
一眼レフのカメラと、短い望遠鏡のような交換レンズでした。
「お兄さんすごいー」
「……ちょっとは兄ぃを見直したわ。
○○が初めて遊園地行く言うたから、記念写真撮ってくれるんやな。
……そやけど、その下に入ってるんはなんや?」
「これか? 予備のカメラや。
メインのカメラが本番で故障したらしゃあないからな。
フィルムも山ほど持ってきたから、なんぼでも撮れるで」
「……やっぱりアホや」
それだけ荷物があったら、鞄が重くなるわけだ、とわたしは思いました。
遊園地のゲートで、ポーチから財布を出そうとすると、Uが言いました。
「あ、今日は兄ぃのおごりやからな。遠慮せんとき」
「やったー! お兄さんお金持ち!」
一番お金持ちのはずのVが、一番喜んでいました。
「え? でも……悪いよ。わたし、お金持ってきたし」
財布を出そうとすると、お兄さんはさっさとパスを買って来てしまいました。
パスを受け取りながら、わたしはお兄さんに尋ねました。
「いいんですか? Uに脅かされてません?」
「アンタなー、それどーゆー意味や?」
「だって……」
Uが何かお兄さんの秘密を握って、脅迫しているのではないか、と疑いました。
お兄さんが、笑ってわたしに言いました。
「大丈夫。バイト代が入ったからね。気にしなくて良いよ」
言葉遣いは訛っていないのに、アクセントが奇妙でした。
ゲートのところで3人組が並んで、最初の写真を撮りました。
3人で撮ると、真ん中の人が早死にするという言い伝えがあるので、
真ん中はVということになりました。
「なんでわたしが真ん中なのー?」
「アンタが一番長生きしそうやからな」
「わたしも、そう思う」
お兄さんの顔は、笑っているというより、すでににやけていました。
わたしはUに囁きました。
「お兄さん、よくあんな変な顔するの?」
「……そや、アホやからな」
中に入ると、人の波がいくつも出来ていました。
「混んでるね」
「そらしゃーない。行列出来てるとこはパスして、ボチボチ回ろか?」
「手、つなごうか」
「え? アンタがそんなコト言うの初めてちゃう?」
「わたし、方向音痴だから、迷子になるかもしれない。
いつも、お兄ちゃんと手をつないでた」
わたしがそう言うと、なぜか、Vとお兄さんが、すすすと寄って来ました。