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「○○ちゃん、すっきりしたー?」

「うん、すっきりした。V、重いよ」

「わたしそんなに重くないよー」

Vがむくれながら離れました。

「ふふっ、ごめん、V。ありがとう。みんな、ありがとう」

「気にしんとき。困ったときはお互い様や。
 兄ぃ、ちょっとは見直したで」

「気味悪いなぁ……褒めてもなんにも出ないぞ」

「あーもう! せっかく褒めてんねんから素直に聞いとき。
 一生に一度あるかないかのチャンスやねんから」

「酷いなぁ……」

Uが笑いだし、それが伝染してみんなで笑いました。

「ねー、みんなで晩ご飯食べようー?」

そうVが提案しましたが、Yさんは遠慮しました。

「えっと、急に来てそれはまずいんじゃないかな」

「わたしも帰る。目が腫れてるの、家の人に見られたくないし」

「そうやな、今日はこのへんでお開きにしよか」

「えー? みんな帰っちゃうのー?」

「またみんなで集まったらエエやん」

「お兄さんもまた来てくださいねー?」

「うん、楽しみにしてるよ」

YさんとUが、わたしを家まで送ってくれることになりました。
Vの家を出てすぐ、UがYさんに話しかけました。

「兄ぃ、Vには彼氏がいるんやから、懐かれても勘違いしたらアカンで?」

「わかってるって、それぐらい」

Yさんは苦笑いして、両腕をぐるぐる回し、「あーあ、今日は疲れた」
とこぼしました。

「お兄さん、今日は本当に、ありがとうございました」

「あ、そ、そんなつもりで言ったんじゃないんだ。
 気にしない気にしない。少しでも役に立てたら良かった」

「はい」

「だけど……正直、お兄さんが羨ましいな」

「え?」

「こんなに心配してくれる可愛い妹がいるんだもんな……」

振り向くと、Uの目が危険なほど細められていました。

「……って、俺にはUがいるから別に羨ましくはないな」

「取って付けたように言わんとき。ふん」

「U」

肩を叩こうとしたYさんの手を振り払って、Uは駆けていきました。

「先に帰って晩ご飯の支度しとくわー」

「またねー」

Uが見えなくなると、Yさんはため息をつきました。

「ハァ……あいつはどうしてああなのかなぁ?」

「お兄さん、わたしも羨ましいです」

「へ? なにが?」

「Uには優しいお兄さんがいますから」

「ハハハ、○○ちゃんのお兄さんのほうが優しいよ」

「それに、Uはいつもお兄さんといっしょに居られます」

「まぁ……いるとうるさいけど、いなくなると淋しいだろうなぁ」

家の前まで来て、Yさんが言いました。

「じゃ……俺は頼りないけど、なにかあったら相談に乗るよ。
 遠くのお兄さんより近くのお兄さん、って言うしねっ?」

「ふふふっ。面白いです。お兄さん」

「そう? やりぃ!」

Yさんはガッツポーズを取ってから「じゃ、またね」と去って行きました。
Yさんを見送って、わたしは家に入りました。
自分に友達が居て良かった、としみじみ思いながら。

心の奥底には、まだ重しが沈んでいましたが、
その痛みは、耐えられないほどではありませんでした。

それから、数日が経ちました。
下校の途中で校門に差し掛かると、cさんが壁に寄りかかっていました。
わたしはUとVにささやきました。

「わたしに用みたいだから、ちょっと行ってくる」

「わたしらもいっしょのほうがエエんと違うか?」

「じゃあ、遠くから見てて」

わたしが1人で近づいていくと、cさんは壁から背中を離しました。

「こんにちは」

「よう。こないだの約束のお返し、そろそろいいだろ?」

「今日はこれから図書館に寄ります。今度の日曜で良いですか?」

「お、いいぜ。どこ行く?」

「駅前のロータリーの屋根の下で、1時に待ってます」


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