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「V……静かにしてくれる?」
Vに声を掛けてUを見ると、目と口がまん丸になっていました。
わたしは、自分が失言してしまったことに気づきました。
「U、V……2人ともなにか、誤解してない?」
「誤解って……アンタ……」
「お兄ちゃんがオナニーしてるのを偶然見て、
後で真似しただけ。
直接教えてもらったわけじゃない」
はあーー、と大きく、Uが息を吐き出しました。
なんとか、最悪の誤解は避けられたようです。
「アンタなぁ……そんなんaの前で言うたら、終わりやで?
今までの噂とは比較にもならへん。破滅や。
お泊まりの時は証人もぎょうさんおるしな」
「…………」
仮にUの懸念が誇大でも、万が一に備えておくべきだ、と思いました。
「○○、アンタこの世で一番好きな男は誰や?」
「お兄ちゃん」
反射的に答えていました。
「……もうアカン……」
Uはぐったりと身を伸ばしました。わたしはあわてて取り繕いました。
「今のは、兄妹として、だよ? それに、UとV以外には言わない」
「……アンタは言葉を省きすぎや。
クソのaがその気になったら、なんぼでも話大きゅうできるで。
ただでさえわたしらにはレズ疑惑があるんや。
3人まとめて変態トリオちゅうことになる」
「……わかった。
でも、どう言えば良いんだろう?」
黙り込むのは得意でしたが、ウソを口にするのは慣れていませんでした。
3人揃って、うーん、と腕組みして考え込みました。
「そや! アンタの得意技を使えばエエんや」
そう言われても、心当たりがありません。
「得意技?」
Uがにやにやしました。
「アンタの口癖やん。『なぜ?』『どういうこと?』て。
あと、『オナニー?』とか相手の言葉をオウム返しにしたったら、
アンタはしゃべらんでも相手が先回りしてくれるはずや。
相手がしゃべり疲れたら、『知らない』とか『よくわからない』とか、
いつもの澄ました顔で答えたったらエエねん。
相手も根負けして突っ込んでこうへんやろ」
「U……澄ました顔、って、どういうこと?」
「そや、その調子や」
無意識のうちに使った得意技を指摘されて、ぐうの音も出ませんでした。
「最初っから『知らない』の一言で済ましたら『お高くとまってる』て
言われるかもしれへんけどな、話をしたうえでやったら、
せいぜい『変わりモン』と思われるだけやろ。
どうせ今でもそう思われてるんやから、痛いことあらへん」
大いに異論はありましたが、わたしにも代案は思いつきません。
「でも……Vはだいじょうぶなの?
Uは口から先に産まれてきたから、安心だけど」
「……アンタも言うようになったなぁ。
Vは……まぁ大丈夫やろ。変に知恵つけたらボロ出るしな。
コイツに好きにしゃべらしたったら、みんな煙に巻かれるはずや」
Vは不思議そうにUとわたしを見ていました。
結局、3人とも寝付いたのは、ずいぶん遅くになってからでした。
それでも、翌朝早く、わたしは息苦しさで目覚めました。
金縛りに遭っているのか、と一瞬思いましたが、なんのことはない、
Vが背中からがっちり抱き付いて眠っていただけでした。
「U……あなた、知ってたのね?」
昨夜さりげなく、UがVの反対側に寝た意図がわかりました。
Uは素知らぬ顔で、さっさと食堂へ逃げていきました。
眠い目をこすりつつ教会に行き、午後からはまたVの家で勉強です。
テストが目の前に迫っているせいか、Uもそれなりに真剣でした。
勉強会まで開いて成績が振るわないと、後々なにかと響くそうです。
テストが始まると、午後の授業はありませんでした。
林間学校まで、つかの間の平穏な時が流れるか……と思っていたのですが、
そう上手くはいきませんでした。
ある日の放課後、テストが終わってホッとしたわたしは、
トイレに行こうと廊下に出ました。
歩きながらなんの気なしに、隣の空き教室の扉の隙間に目をやって、
わたしは驚愕しました。UとVが、中で掴み合いの喧嘩をしていたのです。