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「場面転換は4回。1幕目と5幕目、2幕目と4幕目の背景は共通だから、
必要な背景の数は3幕分になる。これ以上は削れなかった。
でも、大きな背景を作ろうとしたら、ベニヤ板は2幕分しかない」
Uが顔をしかめました。
「どないするん?」
美術部員の男子が、うーんと
「背景をベニヤ板の両面に描いたらどうかな?」
「無理。ベニヤ板をつなぎあわせるのに、裏を角材で補強しなくちゃ。
角材が見えないように、裏にもベニヤ板張らなくちゃいけなくなる。
それじゃ、両面に描く意味がない」
「それなら、背景を小さくするしかないか……」
「背景が小さいと貧弱になる」
Uがキレました。
「そんならどないせーちゅーねん!」
「あのね……話を最後まで、聞いてくれる?
わたし、話すの遅いから、じれったいと思うけど……」
「なんかアイデアあるんか?」
「うん。昨夜考えた」
わたしはノートを取りだして、余白に図を描きました。
口で説明しても、すんなり理解してもらえそうになかったからです。
「いい? 背景の板を、真ん中で上下に分割する。
そして、上下の板を、針金で絵本みたいに綴じるの。
表紙を含めて、8ページしかない絵本だと思って。
後ろに支柱を立てて、それを上から吊す。
1幕目では、下に1枚、上に3枚の板がある。
3枚の板の2枚は、一番後ろの板に、フックかなにかで留めてある。
絵本の2ページ目と3ページ目が見えている状態ね。
2幕目では、上の板を1枚下にめくって下ろす。
そうすると、4ページ目と5ページ目が見える。
3幕目では、もう1枚上の板をめくる。
今度は、6ページ目と7ページ目が見える。
4幕目では、下ろした板を1枚めくって上げる。
2幕目と4幕目は共通だから。
5幕目でも同じ。
こうすると、2幕分のベニヤ板で、3幕分の背景が描ける。
大きな1枚の背景に描いた場合と違って、場面転換も数秒でできる。
狭い舞台の上で、大きな背景を入れ替える必要がないから」
男子の1人がうなずきました。
「なるほど……××さん、よく思いついたなぁ。
どのクラスでも予算は同じだから、うちのクラスだけ背景を増やせるね。
設計図描いてくれたら、大工仕事は男子でするよ」
男子2人が支柱を作っているあいだに、
男子の中で唯一の美術部員がベニヤ板に下絵を描いて、
わたしとUは指示に従って色を塗るという分担になりました。
「○○、しばらく暇やなぁ。Vんとこ冷やかしにいかへん?」
「邪魔にならないかな?」
「かめへんかめへん。ほら、他にも野次馬がぎょうさんおる。
そんなんでアガっとったら、本番どころやないで」
Uにうながされて、読み合わせをしている輪に近づきました。
その周りでは、手持ちぶさたなクラスメイトが見物しています。
わたしたちが近寄ってきたのに気づいて、aさんが一瞬だけこちらに目を向け、
すぐにそっぽを向きました。
b君は、一度もこちらを見ようとしませんでした。
Vは台本を読むのに一生懸命で、周りが見えていないようでした。
Uがつぶやきました。
「特訓が必要やな……」
「そうね……」
Vの台詞回しは棒読みそのものでした。
おまけに、語尾を伸ばすクセがぜんぜん直っていません。
やがて下校時刻になって、解散することになりました。
わたしが鞄に宿題のプリントを詰めていると、
aさんがすっと近づいてきて、すれ違いざまにつぶやきました。
「これで勝ったと思わないでね」
刺すような敵意の籠もった言葉でした。
わたしは棒立ちになって、aさんを見送りました。
Uが来て尋ねました。
「なんかaに言われたんか?」
「これで勝ったと思うな、ですって」
「フン、助けてもろといて、それしか言えんのかいな?」
aさんに感謝されるとは、わたしも思っていませんでした。
それにしても……勝ち負けなんかどうでも良いのに、
どうしてaさんが対抗心を燃やしているのかわからず、げっそりしました。
「つかれたよーー」
Vが駆け寄ってきて、3人で帰ることになりました。
Uがニヤリと笑いました。
「V、日曜学校の後も、教会で演技の特訓しよな。
あんな演技じゃ本番で恥かくで」
「ええーーっ!」
当分、賑やかで慌ただしい日々が続きそうでした。
むつかしいねえ
2022-01-28 15:15:41 (2年前)
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むつかしいねえ
2022-01-28 15:22:45 (2年前)
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