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「危機……?」
Uにとって、テストより重大な危機とはなんだろう、
と考えを巡らせましたが、さっぱり見当もつきません。
Vの顔を見ても、?マークが浮かんでいます。
「テストが終わったら林間学校があるやろ?」
わたしたちの学校では毎年、1年が林間学校、2年が臨海学校、
3年が修学旅行に、泊まりがけで行くことになっていました。
小学校の修学旅行に参加できなかったわたしにとっては、
今度の林間学校が、学校行事として宿泊する、初めての旅行です。
「林間学校のメインイベントは、昼間の遠足やのうて、実は夜のお泊まりや」
わたしは昼間の行事の遠足には参加できませんが、
夜泊まるのは、当然みんなと同じ部屋です。
「それが……危機?」
わたしは首を傾げました。
「ふっふっふ、なーんもわかってへんなぁ?」
「うん」
「アンタら、クラスの政治ってモンにうとすぎやで。
そんなんやったらこの世紀末、生き残られへんで?」
「政治?」
Uの大げさな物言いに、これは大がかりな冗談かと思いました。
「情報部の分析によると、クラスの女子の勢力分布は、主流派、
非主流派、反主流派に三分されてるねん」
自分の顔に、縦筋が入ってきたような気がしました。
「……情報部?」
「わたしのこっちゃ。
この3人で、アンテナ張ってるんはわたしだけやからな」
もしかして、Vの親友だけあって、Uにも妄想癖があったのか、と思いました。
「最大派閥の主流派の首領が、aや」
「……誰だっけ?」
Uが、呆れたように言いました。
「……あのなぁ……女子で一番目立ちたがってるヤツおるやろ?」
頭の中で記憶を検索して、ようやくひとりの女子の顔が浮かびました。
人の顔と名前を結びつけるのが、わたしは大の苦手なのです。
「あ……わかった。たぶん」
「aは顔も可愛いし、家は金持ちや。成績もエエ。
これで性格ブスやなかったら良かったんやけどなぁ……」
サイドスタンドの赤い光に照らされたUの表情が、憎々しげになりました。
なにかaとのあいだに、因縁があったのかもしれません。
「自分より目立つモンが周りにおると気にくわんちゅうんが最悪や、
そのくせ自分の手は汚さんとクソみたいな噂流しよる」
いくらなんでも、ここまで口汚いのは尋常ではありません。
「U……言い過ぎじゃない?」
「ハァ? なに言うてんの。
あっちこっちで聞いた情報を総合したんやから間違いあらへん。
だいたい、噂流されてる第一の標的はアンタやで?」
「え? わたし? ……でも、どうして?」
名前も覚えていなかったaさんに、恨まれるような心当たりはありませんでした。
「平たく言うと、主流派はaとその取り巻きや。
わたしらが目の敵にされるんは、aのこと気にもしてへんからやろ。
主流派には入らへんでも、目を付けられてへんのが非主流派、
わたしらは主流派の許しもなく好き勝手しとるから反主流派ちゅうわけや」
「なぜ、許しが必要なの?」
「女王様やからな。無視されるんと目立たれるんが我慢できへんのやな」
「わからない……」
「アホに道理は通じんちゅうこっちゃ」
「…………」
「わたしはaのこと鼻で笑うてたし、
Vはあれで口閉じとったら可愛いし、家も金持ちや。反感買うわけや」
寝てしまったのかと思っていたVが、うー、とうなって抗議しました。
「わたしは?」
「aはガリ勉して私立中学に入るつもりやったらしいわ。
試験に受からへんかったんやからお笑いぐさやけどな。
それやのにアンタは涼しい顔してaより成績がエエ。
aのことライバルとも意識してないんやから傑作や」
「そんなことが原因?」
「どうやら、それだけやないみたいや。
b、て知ってるか? 男子のリーダー格の」
「えーと……」
男子の顔と名前を覚えるのは、女子よりもっと苦手でした。
「まぁエエ。とにかくそのbが、アンタにラブっちゅう噂があるねん」
「ええ!?」
青天の霹靂でした。