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情けない顔をするお兄ちゃんを見て、わたしはくすくす笑いました。
「練習したの。
お兄ちゃんが話してくれた、ジョークを思い出して。
まだ、お友達は出来ないけど、
たまには、クラスの子を笑わせたり、できるようになった」
「ホントか?
良かったなあ……。
なんかお前、明るくなったみたいだ」
「お兄ちゃんと、また会えたから」
わたしはきちんと座り直して、畳に指を突きました。
「まだちゃんと挨拶してなかったけど……
お兄ちゃん、会いたかった……」
お兄ちゃんは、座り直して「うん、俺も」と言ってから、
お腹を抱えて笑い出しました。
「くっくっくっくっく……。
これじゃあなんだか、お見合いだよ。
あー苦しい。お前も腕を上げたな」
「もう! 今のは真面目に言ったのに」
「くくくく。いや、お前、お笑いの才能あるよ」
わたしがそっぽを向くと、お兄ちゃんがしみじみと言いました。
「しかし、お前、髪伸びたなあ。
そんなに長く伸ばしてるなんて、知らなかった。
見たことない服着てたし、最初見たとき、見違えちゃったよ。
背も伸びたんじゃないのか?」
わたしは振り向いて、言いました。
「お兄ちゃんだって。最初、誰だか分からなかった。
髪、すっごく短くしてるし。着ている物も、ぜんぜん違うし」
わたしの背は少し伸びていましたが、お兄ちゃんはもっと伸びていました。
「んー。これは、ま、仕方がないんだ。
こっちは色々と厳しくてな。中学のあいだはみんな丸坊主だ。
あっちで着てたみたいな服だと、軟派だって思われるしな」
「……硬派って、あんなエッチな冗談、言うの?」
「あー。その話はもう勘弁してくれって!
お前が来るのを楽しみにしてたけど、
こんなに成長してるなんて、思わなかったよ」
わたしはまた、くすくす笑いました。
「……でも、不思議。
どうして、わたしが来るって、分かってたの?」
「なんでって……? そりゃ、お袋が1週間前に電話してきたからさ。
お前、旅行の予定表をお袋に見せただろ?」
常識的に考えれば、子供を一人で旅に出すのに、前もって旅行先に、
連絡しておかない親などいません。
わたしはお母さんに、そういう常識があることを知って、驚きました。
「てっきり、駅に着いたら電話してくると思ったんだけどな。
なんで電話しなかったんだ?」
「……ごめんなさい。
いきなり来て、お兄ちゃんをびっくりさせようと思って。
心配、した?」
「ん、ま、そりゃ、心配したけどな。
なんにしても、無事に着いたんだからもういいさ。
お前の元気そうな顔見たら、吹っ飛んだよ。
あのワンピース、一人で買いに行ったのか?」
「うん」
「よーし。偉い偉い。センス良いぞ」
お兄ちゃんの手が伸びてきて、わたしはまた、頭を撫でられるのだと
思いました。でも、なぜか、お兄ちゃんは手を引っ込めました。