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「Uちゃん、だいじょうぶかなー?」

Vが心細げにきょろきょろしています。

「わたしも心配だけど……お兄さんに任せたほうが、良いと思う。
 大騒ぎしたら、Uも帰ってきづらいよ? お弁当食べましょ」

Vがまだしおれているので、わたしは卵焼きを箸でとって、差し出しました。

「はい、あーん」

「あーん、もぐもぐ。美味しいねー。
 ○○ちゃんのお兄さん、料理上手いんだー。
 じゃあ、わたしもお返しー」

Vが自分の弁当箱から箸で一品とって、差し出してきました。
自分が食べる番になると、お兄ちゃんとXさんの視線が気になりましたが、
行きがかり上断るわけにもいきません。

わたしがVの箸からおかずを頬張ると、呆れたのか感心したのか、
Xさんがため息を漏らしました。

「ホントに仲良いねぇ。羨ましいぐらいだ」

「ごめんなさい、じゃあ、おにーちゃんにもあーん」

Xさんは困ったようでしたが、抵抗しても無駄だと悟っているのか、
大人しく口を開けました。

わたしはお兄ちゃんと顔を見合わせました。
見ているほうが恥ずかしい、と思いましたが、わたしが始めたことを、
今さら止めることもできません。

その時、閃きました。
これは二度と訪れないチャンスかもしれない、と。

わたしはできるだけ何気なさを装って、卵焼きを1個取りました。

「……お兄ちゃん、あーん」

お兄ちゃんの顔が唖然として、自然に口が開きました。
すかさず、その口に卵焼きを押し込みました。

「お、おまへ……」

「食べながら喋ったらダメ」

呆然として言葉が出てこないお兄ちゃんを見るのは、これが初めてでした。

わたしは調子に乗っていたようです。

「じゃあ、今度はわたしに。あーん」

口を開けて待っていると、いきなり痛みが頭に降ってきました。

「痛っ!」

「いたいー!」

振り向くと、Uがナメクジを見るような目をして立っていました。

「なに恥ずかしいことしてんねん、○○までいっしょになって。
 通行人がみんな見てるやないか」

恥ずかしい行為に夢中になって、UとYさんが近づいてくるのに
まったく気づかなかったのは失敗でした。

「わたしがおらんときに自分らだけで楽しんで……。
 アンタらの友情はこんなもんやったんやな」

「ご……ごめんなさい」

「ごめんなさいー。でも○○ちゃんが最初に始めたんだよー」

わたしは内心「V、裏切ったわね」と思いました。
YさんがUをなだめに回りました。

「そんなに怒るなよ。Uもホントは羨ましいんじゃないのか?」

UはYさんをキッと睨みつけました。

「ふーん。そんなこと言うんかぁ。兄ぃは○○には優しいなぁ。
 ほんなら今夜にでも兄ぃにおんなじことしてもらお」

「ア、アホ言うな。親父とお袋が見てる前で、そんなことできるか」

「さっき『何でも言うこと聞く』言うたんはウソなん?
 まぁ、2人きりの時でもエエわ」

「勘弁してくれよ〜」

波乱に満ちた昼食が終わり、女性陣3人で休憩所を後にしました。
お兄ちゃんたち男性陣は、そのままお留守番です。

「ねぇ、お兄さんたち、置いてきて良いの?」

「アンタなぁ、これから水着買いに行くんやで。
 プール行く前にどんなんかバレたら面白うないやん」

「でも……わたし、自分で選ぶ自信ないし……」

「なに言うてんの。わたしらがきっちりアンタに似合う水着選んだる」

わたしには、気のせいか、Uの目が邪悪に見えました。

「でも、U、どうしてあんなに怒ったの?」

「どうしてて、怒るに決まってるやん! 交換するやなんて、失礼やで」

それはそうですが、まだ納得がいきませんでした。

「来る途中、Uも同じこと言ってたでしょ?」

「あれはアンタに言うた冗談や。兄ぃに聞こえるトコでは言うてないやろ?
 本人のわたしやアンタの居るトコであんなこと言うのはアホ以下や。
 デリカシーがないちゅうねん」

「なるほど……」

売り場に着いて、わたしがやっぱり迷って選べずにいると、
UとVが水着を何枚か抱えてきました。

試着室の前に来て、わたしの分だという水着を差し出されました。
Vから渡された水着に、わたしは目が点になりました。

「V……これ、派手すぎない?」


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