157:
お兄ちゃんの横顔は蒼白で、口を少し開けて倒れていました。
わたしはいっぺんに目が覚めました。
ドアの隙間から抜け出して、お兄ちゃんの頭の脇に膝をつきました。
そーっと手のひらを口元に当てると、ちゃんと息をしていました。
ホッとして、わたしは洗面所に下りました。
顔を洗って、タオルを濡らして絞り、また階段をそっと上がりました。
横座りしてお兄ちゃんの頭を太股に乗せ、タオルを額にかぶせました。
お兄ちゃんが「んーーー」と声をあげて身じろぎしました。
「!……○○か?」
「お兄ちゃん、おはよう」
「あ、おはよう」
お兄ちゃんは、いがらっぽいような声を出しました。
「こんなとこで寝ると、風邪引くよ」
「ん……ああ。すまん」
「お兄ちゃん……もう良いから」
「……なにが?」
「無理してわたしと遊ばなくても……。
彼女が居るんだったら、その人と遊べば良い。
たまに帰ってきてくれたら、それで良いから……。
お兄ちゃんにウソつかれるのだけは、イヤ」
言いながら、胸の奥が凍えていくのがわかりました。
お兄ちゃんに嘘をつかれたのが、なによりも悲しかったのです。
「○○……お前、誤解してるよ。
いいからちょっとだけ話を聞いてくれ。
昨日Aの家で酒盛りしたっていうのは本当なんだ。
アイツの部屋でこっそりな。
そうしたら、アイツのお姉さんが帰ってきてな、見つかっちゃったんだ。
ばらされたくなかったら仲間に入れろだって。
俺もAも酒は強いんだけど、お姉さんは弱かったみたいだ。
酔っぱらって、俺に抱き付いてくるんで参った。
Aのお姉さんを突き飛ばすわけにもいかないしな。
それだけだ。誓って何にもしてないし、付き合ってもいない」
「誓う?」
「誓う。今までのお前との想い出を全部懸けてもいい」
“誓う”ことは、わたしにとって“約束する”より神聖な言葉でした。
わたしは今までの生涯で、数えるほどしか誓いを立てたことがありません。
「信じる。
……ごめんなさい、お兄ちゃん。こんなとこに寝かせちゃって。
背中痛いでしょ……?」
「平気だよ。友達ん家で雑魚寝するのは慣れてる。
それより、ちょっと二日酔い気味かな……」
お兄ちゃんはパッと身を起こして立ち上がりました。
「走ってくるから、風呂沸かしといてくれ。入浴剤入れてな。
先に入っておいていいから」
「だいじょうぶ……?」
「軽く走って汗かいて、アルコール抜いてくるよ。昨日は飲み過ぎた」
お兄ちゃんがロードワークに行くのを見送って、お風呂にお湯を溜めました。
湯冷めしない温泉入浴剤を入れると、お湯が白く濁ります。
白いお湯に肩まで浸かって足を伸ばすと、頭がすっきりしてきました。
ゆっくり体と頭を洗って、またお湯に浸かっていると、
お兄ちゃんが帰ってきました。
お風呂場の磨りガラスに、お兄ちゃんの影が映りました。
「○○……もう上がるか?」
「うん」
「汗だくだから、俺も早く入りたいんだ」
「え……うん、良いよ」
視線を泳がせていると、お兄ちゃんが腰にタオルを巻いて入ってきました。
掛け湯するときにタオルを取りましたが、
残念ながらお兄ちゃんは向こうを向いていたので、何も見えませんでした。
湯船に入ってくるときに、ちらっと視線を走らせましたが、
おにいちゃんの手が肝心な部分を隠していて、
わたしの目に見えたのは、手のひらからはみ出した毛だけでした。
それでも、あんなに周りまでふさふさと毛が生えているのか、
と少なからずショックを受けました。
「お兄ちゃん……」
「ん、なんだ?」
お兄ちゃんはお湯に浸かって、気持ちよさそうに答えました。
お兄ちゃんの伸ばした足が、わたしの腰をはさむような形になりました。
「お兄ちゃんって、毛深いほう?」
「え? 別にそんなことないんじゃないかな。胸毛も生えてないし。
髭も2日に一度剃ればいいぐらいだし」
「中1のころに……生えてた?」
「そうだな。髭が伸び始めたのはそれぐらいかな」
わたしが聞きたかったのは、違う部分の毛でしたが、聞き直せませんでした。
急に態度変わりすぎ
2016-05-23 13:24:04 (8年前)
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違うと言った瞬間からこんなあt
2017-04-11 05:46:07 (7年前)
No.2