118:
「……?」
「なんですかー?」
「あのね……Uには、彼氏居るのかな?」
「彼氏?」
「居ないと思いますよー、いつもいっしょだけど、そんな話したことないしー」
「そう……」
お兄さんは、ホッとしたようでした。
「どうしてそんなコト聞くんですかー?」
「う〜ん。ちょっとね。アイツ、最近えらく突っかかってくるんだ。
オタクだとか無茶苦茶言うし、部屋を掃除しろってキレるし。
前はもっと素直に甘えてくれたんだけどね……」
お兄さんは、淋しそうな顔になりました。
「そうなんですかー。どうしてでしょーねー?」
Vは首をひねっています。
「あの……」
「なに? ○○ちゃん」
「Uはお兄さんのことが、好きなんだと思います」
お兄さんは、飲みかけていた水をぶわっと吹き出しました。
「げほげほげほ……なんやて?」
「別に、変な意味じゃなくて。
好きだから、素直になれないんだ、と思います」
「……? そうかな?」
「なんとなく、ですけど」
「○○ちゃん、さっすがー。お兄さんが居るとわかるんだねー」
「そうか……ありがとう。
ところで、2人とも、電話番号教えてくれない?」
「え……? 電話番号なら、連絡網のプリントを、Uも持ってますけど」
「アイツに聞いても教えてくれないよ。
またUのコトで相談するかもしれないからさ、できたら」
「そうですか」
わたしとVは、自宅の電話番号をお兄さんに教えました。
「それと、今の話は、Uにはナイショにしてくれる?
知られたら殴られるからさ」
「ナイショの話ですかー? それじゃあ、指切りしましょー」
中学にもなって指切りは無いんじゃないか、と思いましたが、
Vに促されて、3人はそれぞれ小指を絡めました。
「いいですかー?
ゆーびきーりげーんまんうーそついたらダーメですよー?」
お兄さんとわたしは、気の抜けたようなVの声に脱力しました。
「……V? 針千本、呑ませるんじゃないの?」
「やだー○○ちゃん、針を千本ものめるわけないでしょー?」
「……言われてみればそうね」
お兄さんはもう、何も言いませんでした。
やがて、Uがトイレから帰ってきました。
「3人でなにコソコソしてるん?
わたしの悪口言うてたんやないやろな?」
「U、わたしがそんなことすると、思ってる?」
「……あのなぁ、冗談やて」
Uに内緒の話をしたことで、少し気がとがめました。
でも、悪口を言っていた訳ではない、と自分を納得させました。
もうすっかり遅くなっていたので、お兄さんは遠回りして、
わたしとVを家まで送り届けてくれました。
その夜、お兄ちゃんから電話が掛かってきました。
「○○、元気だったか?」
「うん、お兄ちゃんも元気だった?」
「その声聞くと、今日の遊園地は楽しかったみたいだな」
「うん。遊園地だけじゃなくて、教会にも行った」
「教会? どういうことだ?」
わたしはお兄ちゃんに、教会の日曜学校とオルガンのお兄さんのこと、
遊園地とUのお兄さんのことを話しました。
「それで……そのXさんとYさんってのは、
お前に何も変なことをしてないんだな?」
「変なことって?」
「……心当たりが無いなら良いんだ。
やっぱり、お前も友達が出来て明るくなったみたいだ。嬉しいよ」
「……でも、遊園地にはやっぱり、お兄ちゃんと行きたかった」
「ん……いつか、行けるさ」
「…………」
それから数日後、Uが学校に写真の束を持ってきました。
「ほれ。アンタの分は注文通り2枚ずつや」
「ありがとう」
お兄ちゃんに1枚ずつ送るために、わたしの分は2枚ずつ焼いてくれるよう
頼んでいました。
Vが写真を取りあげて、歓声を上げました。
「わーすごくきれいに撮れてるねー!」
「ホント。でも、ずいぶん早く出来たね」
「兄ぃは自分で現像できるさかいな。こういう時だけ便利や」
わたしは、くすくすと笑いました。
「……? 何が可笑しいねん?」
「Uって、お兄さんが好きなんだなぁ、って」
「……っ! なんでやねん!」
いつものように、取り留めのない話をしながら、家に帰りました。
すると、日暮れ時に、電話が鳴りました。
「はい、××です」
「あ、○○ちゃん? Yです。ちょっと、出て来れない?」
「え? 今からですか?」
「うん。こないだの写真で、Uには見せてないのがあるんだ。
友達の写真ばっかりたくさん撮ったのがばれると、
アイツ拗ねるからさ」
「わかりました。どこに行けば良いですか?」