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すがるようなhさんの目を見ていると、口が重くなりました。

「あのね……今度のクリスマスは、わたしたち三人にとって、
 特別な日なの。
 できれば遠慮してもらえるとありがたいんだけど……」

言いながら、自分が幼子おさなごからおもちゃを取り上げていじめている
極悪人のように思えてきました。
hさんの表情が、見る見る暗くなっていきます。

「あはは……どうせ、わたしなんかが仲間に入りたいなんて、
 ずうずうしいデスネ……」

hさんは、泣きそうになるのをこらえているように見えました。
クリスマスに……hさんは独りぼっちなのでしょう。

「あっ!
 そのかわり、初詣にいっしょに行くというのはどう?」

悲しげに下を向いていたhさんが、顔を上げました。

「……いいんデスカ?」

「いいよね? U、V」

「もちろんや」

少し遅れてVも「いいんじゃないかなー」と答えました。
なんとかhさんのフォローができて、わたしはほっとしました。

「それから、自分のことを『わたしなんか』なんて
 言うもんじゃないと思う。
 自信を持たないと、上手くいくものもダメになってしまうでしょ?」

「えへへ……わたし、どんくさいし、勉強もできないし、
 見た目もブサイクだし、とりえなんか一つもないんデス。
 自信を持つなんて無理デスヨ」

とっさにhさんの長所を挙げようとして……言葉に詰まりました。
わたしはまだ、hさんの長所も短所もよく知らないのです。
けれど、ここまで言って引くわけにはいきません。

「そんなことない。
 このVだっていつも半分寝てるみたいなものだし、
 Uは勉強がちっっともできないし、
 わたしも美人じゃないけど、引け目を感じたりはしない。
 最初から自分がダメだ、って思っていたら、
 なんにもやる気が出ないじゃない?
 空元気でもいいから、自分はやればできるんだ、って思わなくちゃ。
 ホントに、自信を持てば、結果は後からついてくる」

「そう……デスカ?
 わたし、そんなふうに言ってもらったの、初めてデス。
 うれしいデス。うれしいデス」

「hさんのそういう素直なところが、わたしは素敵だと思う」

微笑みかけると、hさんの顔にはにかむような笑みが浮かびました。
わたしは上手くいった……と思って内心にやりとしました。

「……ちょっと待ち」

「え、なに? U」

振り向くと、Uが目をすがめて頬をぴくぴくさせています。

「アンタいま、どさくさに紛れてひどいこと言わへんかったか?
 仮にも親友であるわたしらに」

Vも、ひどいよー、と言いたげにむーっと唇を尖らせています。

「あっ、気のせいだよ、今のは、その、言葉の綾というか……
 あははは」

「わたしがアホやと思うて笑ってごまかす気やな?
 V、ちょっと押さえとき」

気が付くと、いつの間にかVが後ろに回っていました。
Uとアイコンタクトを交わして死角に回り込むとは、
おそるべき俊敏さです。

「あ、ちょっと、待って、なにをするの?」

「言わんでもええことをぺらぺらしゃべる友達甲斐のないヤツには、
 制裁を加えんとなぁ……沈黙の掟ちゅうやっちゃ」

「それ意味が違うぅ……きゃはははははははは……」

それじゃわたしの言ったことを自分で認めることになる……
と言おうとして、それ以上続けられませんでした。
Vに押さえつけられたわたしに、苛烈なくすぐり攻撃が襲来したのです。
脇腹は弱点なのに……。

「これぐらいで許したろか……」

情け容赦のない責めは、わたしがぴくぴく痙攣しはじめるまで続きました。
Uはこういう時、限度というものを知りません。
hさんはずっと、目をまん丸にして見ているだけでした。

「……はぁはぁはぁ……。
 hさん、ひどい……見てないで助けて」

わたしが恨みがましい視線を向けると、hさんは吹き出しました。

「ぷ、くくく……ごめ、ごめんなさいデス。
 ちょっと、○○さんのイメージが、変わってきたみたいデス」

初めてhさんが見せた、無防備な笑顔でした。

「ん? どういう意味かしら?
 でもhさん、やっぱり、そんなふうに笑ってた方が、可愛い」

「えっ、そんな、かわいいなんてうそデスヨ……」

hさんは顔を赤らめて、下を向いてしまいました。

「アンタなぁ……女同士で口説いてどないするんや。
 それも『お兄ちゃん』の真似か?」

Uが呆れ返ったような口調で突っ込んできました。


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