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翌日の教室で、わたしはおそるおそる尋ねました。

「U……お兄さん、生きてる?」

「死ぬわけないやん!」

「良かった……今のは冗談」

「マジな顔して怖いこと言わんといて」

「ねーねーお兄さんがどうしたのー?」

脇で聞いていたVが、話に割り込んできました。

「Vには関係あらへん」

「ずるいよー。わたしだけ仲間はずれー?」

UはVを相手にしませんでした。

「せやけど○○、あの技はどこで覚えたんや?」

「技?」

「いきなりわたしに抱き付いてきたやん。
 びっくりして金縛りになったで」

「ええー! ○○ちゃんがUちゃんに抱き付いたのー?」

UがあわててVの口をふさぎました。

「アホ! 大きな声出すんやない。変な噂が立ったらどないすんねん」

「……もごもご……くるしいよー」

Uが手を緩めると、Vはわたしのほうに突進してきました。
わたしは為す術もなく、大柄なVに抱きすくめられました。
わたしの力では、脱出不可能です。

「アホー!」

Uが丸めた教科書で、Vとわたしの頭をぱんぱーんと叩きました。

「いたい……角が当たったよー」

Vが涙目になりました。

「なに異常なコトしてるんや! みんな見てるやないか!」

「それはUちゃんが大きな声出してるからだよー」

わたしは、噂の発生を抑えるのはもう手遅れだ、と思いました。

「移動しましょ」

わたしたちは、こそこそと廊下に移動しました。

「わたしが興奮したり泣いたりすると、お兄ちゃんがいつもああしてくれた。
 すごくホッとする。Uにも効果、あったでしょ?」

UとVは目を丸くしました。

「するとなにか? アンタが泣いてたら兄ちゃんが抱き締めてくれるんか。
 そらすごいな」

「すごーい。いいなー」

Vの瞳がきらきら輝きました。わたしは大きくうなずきました。

「すごいでしょ。効果抜群」

Uはなぜか、大きくため息をつきました。

「ま、エエわ。つっこまんとく。アホらしなってきた。
 せやけど、もうアレはやめとき。
 特に男相手にあんなことしたら、絶対誤解されるで」

「……? いいけど、お兄さんと仲直りしてね」

「ま、わたしらはだいたいいつもあんな感じやねん。
 今さら、仲良うするんは照れくさいやん」

「喧嘩してないなら、それで良いけど……」

「喧嘩はわたしの完全勝利でケリついてん。
 兄ぃの財布はこれから当てにしてエエで」

Uの口許が、勝ち誇るようにニヤリと歪められました。
YさんはもともとUの下僕だったようですが、
奴隷に格下げされてしまったのだろうか、と内心同情しました。

チャイムが鳴って、美術の授業が始まりました。
自由課題の水彩画です。

わたしは自分の色彩センスに、まるで自信がありません。
デッサンも、描き込めば描き込むほどおかしくなります。

その弱点をカバーするために、わたしは使う色をあらかじめ制限し、
ふつうなら絵を描くと呼べないような画法を選びました。
問題は、仕上げるのに通常の3倍の時間がかかることです。

わたしはそれから、昼休みや放課後の時間を使って、
どうにか提出日に間に合わせました。

提出の前に、美術の先生が指示を出しました。
生徒が2人ずつペアになって、お互いの作品を評価するのです。

わたしとペアになったのは、男子のZ君でした。
それまで名前も覚えていませんでしたが、ひょうきんな言動で目立っていました。

わたしは淡々と、Z君の絵のデッサンの歪み、構図のまずさ、塗りの粗雑さを、
順に指摘していきました。次第に、Z君の顔が青ざめてきました。

さすがにこのままではまずい、と背中が冷えてきましたが、困ったことに、
褒める要素が1つも見あたりません。

わたしと交替したZ君は、興奮した調子でわたしの作品をこき下ろしました。
指摘された短所は、前もって自分で予想した範囲内だったので、
わたしは黙ってうむうむとうなずきました。

内心は、これから人の作品を評価する際には、最初に長所を探して、
短所は1つだけ指摘するに留めよう、と考えていました。

まぁ、二度とZ君に関わることは無いだろう、とも思いましたが……、
残念ながらその予想は、結果的に外れました。


関係ないけど関わりのある人の名前、Zまでいっちゃったね
2017-10-15 21:14:52 (7ヵ月前) No.1
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