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「え……ここで?」

「部屋に行こう」

お兄ちゃんは背を向けて、さっさと行ってしまいました。
否も応もありませんでした。

いつもと違う、お兄ちゃんの強引な雰囲気が、不安でした。
でも、大好きなお兄ちゃんに逆らう勇気は、わたしにはありませんでした。

お兄ちゃんの部屋にはいると、お兄ちゃんはカメラを手にしていました。
わたしはびっくりしました。

「お兄ちゃん……写真、撮るの?」

「ああ、記念写真だ。
 今のお前は、もう二度と見られないからな」

お兄ちゃんはカメラを構えて、パシャリと撮りました。

「ジャージを脱げ」

「……」

お兄ちゃんの注視の下で、ジャージを脱ぐのは、抵抗がありました。
圧迫感のようなものを感じて、わたしはじりじり後ずさりしました。

「どうした?」

「……恥ずかしい」

お兄ちゃんの顔が、顰められました。

「なに言ってんだ。
 体育の時にはその格好して、みんなに見られるんだぞ。
 R君には見せられても、兄ちゃんには見せられないのか?」

R君と同じクラスになる確率は、低いだろう……と思いましたが、
怒ったような声を聞くと、何も言い返せませんでした。

わたしはおずおずと、ファスナーを下ろしました。
緊張で、微かに手が震えていたかもしれません。

ジャージのズボンを脱ぐと、細い太股があらわになりました。
半袖の体操服はぶかぶかで、ブルマを半ば隠していました。

ブルマだけは緩いとみっともないので、ぴったりサイズでした。
わたしは、体操服の裾を引っ張って、股を隠すように立ちました。

お兄ちゃんはまたパシャリとシャッターを切って、言いました。

「ただ立っているだけだと、面白くないな。
 ベッドに上がれ」

わたしは言われるままに、マットレスに横座りしました。

「ストレッチ体操って知ってるか?」

「……知らない」

「お前、運動してないから体硬いだろ。
 右足を伸ばして、左足を曲げて、どっちかの膝に胸を付けてみろ」

やってみると、膝に胸を付けるどころか、腰が90度も曲がりません。

「……お前、いくら何でも硬すぎだぞ。
 やってみせるから、よく見てろ」

お兄ちゃんがベッドに上がってきて、ストレッチ体操のコースを実演しました。
お兄ちゃんの体は驚くほど柔らかく、伸ばした膝に胸が付きました。

「息を止めないで、痛くないぐらいに、筋を伸ばしたらしばらくじっとするんだ」

わたしが見よう見まねでストレッチをすると、
お兄ちゃんは脇に立って、何枚もパシャパシャと撮影していました。

この時ストレッチ体操を覚えたおかげで、
わたしも半年後には、胸を膝に付けられるようになりました。

お兄ちゃんがカメラを下ろすと、わたしはホッとしました。

「お兄ちゃん、終わり?」

お兄ちゃんの機嫌は、もう直っているようでした。

「ああ、疲れただろ。マッサージしてやろう」

お兄ちゃんはわたしの後ろにあぐらをかいて、肩と首を揉みほぐしてくれました。
うつぶせにされて、背中、腰、太股、脹ら脛から足の裏まで揉んでくれました。
わたしは気持ちよさに鼻を鳴らし、体が火照って眠くなりました。

わたしがぐったりしていると、お兄ちゃんが横に寝そべりました。

「今日はのんびり昼寝しよう」

わたしはお兄ちゃんを抱き枕にして、そのまま眠りに落ちました。

「○○」

わたしの名前を呼ぶ声で目覚めると、お兄ちゃんがお盆を持って立っていました。

「お茶淹れてきた。ケーキもあるぞ。
 英国式に、ベッドで紅茶だ」

甘いパウンドケーキと、スライスしたレモンを添えたレモンティーでした。

わたしは枕にもたれたままで、お兄ちゃんはカーペットにあぐらをかいて、
紅茶を飲みました。ぼんやりした頭がすっきりしてきました。

「○○」

「なに?」

「今日は兄ちゃん、いらいらしてた。ごめんな。八つ当たりして」

「いい。気晴らしを手伝えて、嬉しい」

お兄ちゃんがわたしの頭をわしゃわしゃしたので、紅茶がこぼれました。

「熱!」

「あっごめん!」

お兄ちゃんがわたしの手からティーカップを取り上げました。

「やけどしてないか?」

わたしは慌てて起きあがり、半袖の体操服を脱ぎました。
アンダーシャツの胸に紅茶が染みていたので、お兄ちゃんに背を向けて、
それも脱ぎました。


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