102:
「え……ここで?」
「部屋に行こう」
お兄ちゃんは背を向けて、さっさと行ってしまいました。
否も応もありませんでした。
いつもと違う、お兄ちゃんの強引な雰囲気が、不安でした。
でも、大好きなお兄ちゃんに逆らう勇気は、わたしにはありませんでした。
お兄ちゃんの部屋にはいると、お兄ちゃんはカメラを手にしていました。
わたしはびっくりしました。
「お兄ちゃん……写真、撮るの?」
「ああ、記念写真だ。
今のお前は、もう二度と見られないからな」
お兄ちゃんはカメラを構えて、パシャリと撮りました。
「ジャージを脱げ」
「……」
お兄ちゃんの注視の下で、ジャージを脱ぐのは、抵抗がありました。
圧迫感のようなものを感じて、わたしはじりじり後ずさりしました。
「どうした?」
「……恥ずかしい」
お兄ちゃんの顔が、顰められました。
「なに言ってんだ。
体育の時にはその格好して、みんなに見られるんだぞ。
R君には見せられても、兄ちゃんには見せられないのか?」
R君と同じクラスになる確率は、低いだろう……と思いましたが、
怒ったような声を聞くと、何も言い返せませんでした。
わたしはおずおずと、ファスナーを下ろしました。
緊張で、微かに手が震えていたかもしれません。
ジャージのズボンを脱ぐと、細い太股があらわになりました。
半袖の体操服はぶかぶかで、ブルマを半ば隠していました。
ブルマだけは緩いとみっともないので、ぴったりサイズでした。
わたしは、体操服の裾を引っ張って、股を隠すように立ちました。
お兄ちゃんはまたパシャリとシャッターを切って、言いました。
「ただ立っているだけだと、面白くないな。
ベッドに上がれ」
わたしは言われるままに、マットレスに横座りしました。
「ストレッチ体操って知ってるか?」
「……知らない」
「お前、運動してないから体硬いだろ。
右足を伸ばして、左足を曲げて、どっちかの膝に胸を付けてみろ」
やってみると、膝に胸を付けるどころか、腰が90度も曲がりません。
「……お前、いくら何でも硬すぎだぞ。
やってみせるから、よく見てろ」
お兄ちゃんがベッドに上がってきて、ストレッチ体操のコースを実演しました。
お兄ちゃんの体は驚くほど柔らかく、伸ばした膝に胸が付きました。
「息を止めないで、痛くないぐらいに、筋を伸ばしたらしばらくじっとするんだ」
わたしが見よう見まねでストレッチをすると、
お兄ちゃんは脇に立って、何枚もパシャパシャと撮影していました。
この時ストレッチ体操を覚えたおかげで、
わたしも半年後には、胸を膝に付けられるようになりました。
お兄ちゃんがカメラを下ろすと、わたしはホッとしました。
「お兄ちゃん、終わり?」
お兄ちゃんの機嫌は、もう直っているようでした。
「ああ、疲れただろ。マッサージしてやろう」
お兄ちゃんはわたしの後ろにあぐらをかいて、肩と首を揉みほぐしてくれました。
うつぶせにされて、背中、腰、太股、脹ら脛から足の裏まで揉んでくれました。
わたしは気持ちよさに鼻を鳴らし、体が火照って眠くなりました。
わたしがぐったりしていると、お兄ちゃんが横に寝そべりました。
「今日はのんびり昼寝しよう」
わたしはお兄ちゃんを抱き枕にして、そのまま眠りに落ちました。
「○○」
わたしの名前を呼ぶ声で目覚めると、お兄ちゃんがお盆を持って立っていました。
「お茶淹れてきた。ケーキもあるぞ。
英国式に、ベッドで紅茶だ」
甘いパウンドケーキと、スライスしたレモンを添えたレモンティーでした。
わたしは枕にもたれたままで、お兄ちゃんはカーペットにあぐらをかいて、
紅茶を飲みました。ぼんやりした頭がすっきりしてきました。
「○○」
「なに?」
「今日は兄ちゃん、いらいらしてた。ごめんな。八つ当たりして」
「いい。気晴らしを手伝えて、嬉しい」
お兄ちゃんがわたしの頭をわしゃわしゃしたので、紅茶がこぼれました。
「熱!」
「あっごめん!」
お兄ちゃんがわたしの手からティーカップを取り上げました。
「やけどしてないか?」
わたしは慌てて起きあがり、半袖の体操服を脱ぎました。
アンダーシャツの胸に紅茶が染みていたので、お兄ちゃんに背を向けて、
それも脱ぎました。