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わたしはcさんに一礼して、Uたちの元に戻りました。
2人とも不思議そうな顔をしています。
「案外早かったやん」
「よかったねー」
「今日はね。日曜日に会う約束したから」
「なんやて!!
……アンタ、それは飛んで火にいる夏の虫ちゅうやつやで」
「わたし、虫じゃないよ」
「そんな話してへん!
あの先輩と2人きりで会うやなんて、無謀すぎるで」
「誰も2人きりで会うなんて、約束してないけど?」
「ハァ?」
「cさんには情報提供のお礼におごるだけ。
UとVとYさんにもお世話になったから、おごるね」
「……つまり、わたしらにも来い、ちゅうことか?」
「駅前のデパートの喫茶店のパフェ、好きなの選んで良いよ」
「……う……それは、魅力的やけど、
わたしらがついてったら、先輩『騙された』って言わへんか?」
「約束してないことで、怒るほうがおかしい」
「アンタ……詐欺師になれるな。先輩怒るで絶対」
「だいじょうぶ。いざとなったら、お兄ちゃんの名前出すから」
「きったなー」
「目的に応じて、最適の手段を選ばなくちゃ。
それともUは、パフェをタダで食べたくない?」
「行く行く」
「Vも来るでしょ?」
Vのほうを向くと、意外にも、眉間にしわを寄せていました。
「うーー」
「どうしたの?」
「日曜日は、おにーちゃんと勉強する約束してるのー」
Xさんとのお勉強タイムを取るか、デラックスなパフェを取るか、
必死に悩んでいるのが見て取れました。
「それじゃ、Vにはお土産買ってきてあげる。
あそこはアップルパイも美味しいよ」
「ホントー?」
Vは一転してニコニコ顔になりました。
「せやけどアンタもブルジョアやな。
先輩とわたしと兄ぃとVにおごるやなんて、
Vより小遣い多いんか?」
「そんなことない、と思うけど。
わたし、UやVみたいに、買い食いで無駄遣いしないから」
「それはアンタが少食すぎるだけやん!
育ち盛りなんやから、買い食いぐらいふつうやで。
そんなんやから育たへんのと違うか?」
Uの視線が胸元に注がれたので、わたしの声は自然と冷たくなりました。
「ふーん。そういうこと、言うんだ」
「ウソウソ。日曜日まではなんも言わへん」
Uのあからさまな現金さには、ため息しか出ませんでした。
日曜日の昼前、わたしは教会の2階で、カーペットに寝ころんでいました。
横ではUもごろごろしています。
「先輩、ここに呼んだらよかったんと違うか?」
「どうして?」
「アンタのその姿見たら、一発で幻滅するで」
「それ……どういう意味?」
「いつも教室でシャキッとしてるアンタが、ここではタコみたいやん」
「……教室だと、どうしても緊張しちゃうの。
ここに居ると、なんだか家に居るより落ち着く」
「アンタも馴染んだなぁ……洗礼受けるんか?」
「え? わたしが? まさか」
「Vは今年中に洗礼受けるらしいで。さっきW先生と話してるの聞いた。
けっこういろいろ準備のための勉強がいるらしいで」
「ふぅん。大変ね……」
カトリックでは生まれたときに洗礼を受けますが、
プロテスタントでは、しかるべき時期に、自分の意思で洗礼を受けるのです。
Vならきっと、善良なクリスチャンになるだろう、と思いました。
「どうせXの兄ちゃんに勧められたんやろけどなぁ。
どっちの家も家族ぐるみクリスチャンやから。
わたしは聖書読んでもようわからんけど、
アンタやったらもう下手な信者より詳しいんと違うか?
自分でも聖書買うたんやろ?」
「うん。文語訳と口語訳と共同訳。
文語訳は小説なんかでもよく引用されるし」
「3種類もか……? 読んで面白いんか?」
「物語としては面白いね。信じられたら、救われるんだろうと思う」
「信じられへん?」
「信じたいけど、信じ切れない。それじゃ、信者にはなれない」
「かったいなぁ。そんな真剣な信者なんてめったにおらへんで」
「仕方ないよ、こういう性格なんだから」
「そらそうやな。……ぼちぼち行こか」
わたしとUは起き上がって、まだ子供たちと遊んでいるVに合図し、
教会を出ました。
「お兄さんは?」
「今ごろこっちに迎えに来てる途中のはずや」
「迎え?」
「来た」
Uの指先の方向を見ると、Yさんが自転車をこいで走ってきていました。
坂本勇人を殺して死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死
2018-12-14 22:30:03 (5年前)
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