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Uがげんこつを握りしめて一喝しました。
「アホかアンタは! 中学にもなって、
思い出でいちいち泣いとってどないすんねん!」
Vはあわてて、顔をブラウスの袖でごしごし擦りました。
「え? わたし泣いてないよー」
わたしは2人の息の合ったやりとりを聞いて、
自分もいつか、この2人の親友になりたい、と思いました。
一息入れて、ショートケーキを食べました。
Uは、「こんなん食べたら晩ご飯入らへんなぁ」とぼやきながら、
綺麗に平らげました。
ほっとしたところで、Uが切り出しました。
「なぁ。○○が友達になった記念に、日曜日遊びに出かけへんか?」
「いーねー。どこにしようかー?」
「○○、アンタはどっか行きたいとこあるか?」
3人で遊びに行くこと自体は、すでに決定事項のようでした。
「わたしは……遊園地に行ってみたい」
「うーん。遊園地はありきたりやなぁ。
○○は体弱いから、人混みはつらいんちゃうか?
派手なアトラクションとかも無理やろし」
「わたし、まだ一度も遊園地に行ったことないから」
「なんやて? それホンマか?
家族で遊園地行ったことがいっぺんもないんか?」
UもVも、信じられない知らせを聞いたような顔をしました。
「小さいときから、家族で出かけるってこと、なかったから。
2年前に、お兄ちゃんに海に連れて行ってもらったけど。
この前の春休みは、水族館や植物園にも一緒に行った。
でも、遊園地は人混みがひどいから無理だって……」
「そうか……せやけど、体はだいじょうぶなんか?」
「無理しちゃダメだよー?」
「ジェットコースターには、別に乗らなくても良い。
短い時間でも良いの。今のうちに行っておかないと、
遊園地に一度も行かないまま、大人になっちゃいそうだから。
ひとりじゃ行く気がしなかったけど、友達とだったら……。
すぐに帰らなくちゃいけないかもしれないから、迷惑かなぁ……」
わたしがそれだけ言って、顔を伏せていると、
ソファの向かい側から、洟をすすり上げる音が聞こえてきました。
わたしが顔を上げると、Vが顔をくしゃくしゃにして泣いていました。
3人の中で一番の、可愛い顔が台無しでした。
「うぐ、うぐ、うぐ、そんなのかわいそーだよー」
涙がぽろぽろと、Vの頬を伝っていました。
わたしが驚いて反応できずにいると、Uが声をかけてきました。
「可哀想ちゅうのは見下してるわけやなくて、
コイツは純粋にアンタを思って泣いてるんやから、誤解せんとってな?」
今までに聞いたことのなかった、Uの優しい声でした。
Vの親友だから、その気持ちを代弁できたのでしょう。
わたしは立ち上がってポケットからハンカチを出し、
Vの顔を拭きました。
「ありがとう。わたしのために泣いてくれて」
そう言いながら、わたしの目からも涙が溢れました。
Vが落ち着いてから、3人で日曜日の計画を立てました。
「V、今度の日曜学校は休めるんか?」
「えー、今からだと無理だよー」
「それやったら、遊園地は午後からやな」
わたしは疑問を挟みました。
「日曜学校って? 日曜日にも学校があるの?」
「ちゃうちゃう、Vはクリスチャンやから日曜日は教会に行くんや。
午前中に牧師の先生の説教聞いて賛美歌歌うんやけど、
その後、教会に来とる小学生相手に、
聖書のお話したり遊んだりするんが、日曜学校ちゅうねん。
Vはその日曜学校の先生(リーダー)やってるんや」
Vが先生……という斬新な組み合わせに、わたしは一瞬考え込み、
子供相手ならむしろはまり役かも、と思い直しました。
「どうせ午前中は暇やろ? ○○も教会来うへんか?」
「わたしは信者じゃないけど、行っても良いの?」
「かめへんかめへん。わたしも信者やないけど、
Vと遊ぶために毎週教会に行ってるんや。
あそこの先生(牧師)はそんなん気にせえへん」
それから、毎週日曜日の午前中は、教会に集まるようになりました。
「遊園地にはお昼からボチボチ行ったらエエな。
せやけど帰りが遅うなるか……そや、うちの兄ちゃんを連れて行こ」