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Uとわたしが肩を並べて歩く後ろを、VとXさんが付いてきました。
振り返ると、VはXさんの腕に、コアラのようにぶら下がっています。
Xさんは歩きにくくてしょうがないんじゃないか、と思いました。
わたしは声をひそめて、Uと言葉を交わしました。
「ねぇ。VとXさんは、いつもあんななの?」
「……見てのとおりや。なんぼ言うても治らん。
あのエエカッコしい(Xさんのことらしい)も
ちょっとは注意したったらエエのにな」
「恥ずかしくないのかな?」
「恥ずかしがってるように見えるか?」
「見えない」
「見てるほうが恥ずかしわ」
わたしは内心、人前でも素直に甘えられるVが羨ましかったのですが、
Uは見かけによらず、お堅いようでした。
Uの家は、一戸建てではなくマンションでした。
VはXさんに手を振って、「またねー」と大きな声を出しました。
マンションの1階のホールに、高校生ぐらいの小柄な男の人が立っていました。
Uに似た顔立ちで目が大きく、チェックの上着を着ていました。
「U、おかえり」
「なんや兄ぃ。外で待っとったんか。
すぐには行かへんで。部屋でお昼食べて休んでからや」
「そんなんわかってる。お前が珍しく友達連れて来る言うたから、
出迎えよう思うて」
「ははーん。なんや怪しいなぁ。下心あるんとちゃうか?」
「なっ、なにゆうてんねん。あんまり恥ずかしコト言うなや」
わたしもVも、話に割り込む隙がありませんでした。
Uの乱暴な口調は、お兄さんに対しても変わらないようでした。
わたしはお兄さんがどうして怒らないのだろう、と思いました。
こうしていても埒があかないので、とりあえず進み出て挨拶しました。
「初めまして。××○○と申します」
「Vです♪ お兄さんよろしく」
お兄さんは頭を掻きながら返事をしました。
「あっ……どうも。妹がお世話になっています。僕はYです」
「あはははははは! ぼ、ぼくぅ〜〜?」
Uがお腹を抱えて爆笑しました。お兄さんは、真っ赤になりました。
わたしは眉をひそめ、Vはぽかんとしました。
「U……ひどいんじゃない?」
「……せ、せやけど、兄ぃが『僕』やて……?」
笑いすぎて苦しそうなUを無理に引っ張って、エレベーターに乗りました。
密室の中に、奇妙な沈黙が充満しました。
お兄さんは赤い顔で、黙って天井を見ています。
「あの……お兄さん、気にしないで……ください。
別に可笑しくは、ありませんでした」
蚊の鳴くような声で言うと、お兄さんは驚いたように視線を下ろしました。
「あ……そう。ありがとう」
わたしたちは玄関をくぐって、リビングに通されました。
ちゃぶ台のようなテーブルの上に、ホットプレートが準備してありました。
「なにをするの?」
「うしし。今日は友達が来るいうたら、母ちゃんがごちそうせな言うて、
エエ肉買うてきてくれたんや」
「お昼から焼き肉……?」
「肉が嫌いやったら無理せんでもエエで。
お好み焼きでも焼きそばでも作れるさかい」
わたしは、Uには一生敵わないのではないか、と思いました。
わたしは声を低めました。
「それはいいけど……さっきからVが静かね? どうしたのかな?」
「気にすることあらへん。ちょっとアッチの世界に逝っとるんやろ。
放っといたらそのうち帰ってくる」
焼き肉パーティーが始まると、お兄さんがわたしとVの取り皿に、
せっせと焼けたお肉や野菜を取り分けてくれました。
Uは勝手にせっせと自分の皿に、肉ばかり取っています。
この調子では、お兄さんのお肉が無くなってしまいそうでした。
「お兄さん……わたしはあんまり食べないから、食べてください」
「そ、そう?」
食事の後、Uは「ゲームでもしよか?」と言ってきましたが、
そんなに時間がないので断りました。
出かけるとき、お兄さんは肩に妙に大きな鞄を担いでいました。
死ね