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羽毛のように優しく、お兄ちゃんの左手が背中を撫でました。
右手はわたしの髪をくしけずります。
重力が無くなったかのように、体が軽くなりました。

お兄ちゃんの鼓動とわたしの鼓動が重なって、一つになりました。
1分だったのか、5分だったのか、もっと長かったのか判りません。
夢のようなひとときでした。

お兄ちゃんの指がわたしの髪をかき混ぜて離れ、
胸が潰れるほどぎゅううううっと強く抱きしめられました。

「か、はっ」

肺から息が漏れました。
お兄ちゃんの首に預けた頭の天辺に、口付けされたのがわかりました。
力が緩められ、顔を上げると、お兄ちゃんの顔が目の前にありました。
かすかにたばこ臭い、お兄ちゃんの息の匂いがしました。

耳の奥で血流が轟々と血管を過ぎる音がしました。
お兄ちゃんの指先が、何度もわたしの頬を、耳を撫でさすりました。
火が着いたような熱さが、顔を覆っています。

「はああああっ」

吐息が漏れて、お兄ちゃんとわたしの息が混ざり合いました。
もう、立っていられません。
目を伏せて、ずり落ちないようにお兄ちゃんにしがみつきました。

お兄ちゃんはわたしを、抱きかかえるようにベンチに座らせました。
お兄ちゃんも隣に腰を下ろし、右手でわたしの肩を支えました。

「……おにい、ちゃん」

「……」

「会えなくてもいい。
 お兄ちゃんがわたしのこと好きでなくても……
 わたし、お兄ちゃんが好き。
 わたしのこと、忘れないで」

「忘れない」

お兄ちゃんは、もう一度繰り返しました。

「忘れない」

「ああ……今日は、楽しかった……。
 もう、真っ暗だね。
 お兄ちゃん、帰って」

「夜道は危ないぞ」

「ここからなら、ひとりで帰れる。
 離れたくないけど、ずっといっしょには居られないもんね」

わたしは立ちあがって、お兄ちゃんから距離を置きました。
冬の夜気が、体と頭を冷やしてきます。
水銀灯に照らされたお兄ちゃんの顔は、儚げに見えました。

「もうすぐクリスマスだな……俺は仕事が入ってて会えないけど、
 なにか欲しいものはないか?」

「ないよ。プレゼントはさっき、貰っちゃった。
 わたし、忘れない」

たとえこれが夢でも、かまわないと思いました。

「また、落ち着いたら連絡するよ」

「うん、待ってる。お兄ちゃん、元気でね」

わたしは笑顔で手を振って、冷たく暗い家へ戻っていきました。


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