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「やっぱり、お兄ちゃんって……モテるんだ。
わたしが居ると、邪魔じゃない?」
わたしは「彼女」として紹介された動揺を隠そうと、
わざと素っ気ない態度をとりました。
「そんなわけないだろ? せっかくお前と遊びに来たのに、
知らない子に邪魔されたくないよ」
「ふぅん。さっきの人にも、愛想良くしてたのに?」
「虫みたいに追い払うわけにもいかないだろ?」
そう言って、お兄ちゃんは邪気のない笑みを浮かべました。
お兄ちゃんは、その笑顔が女の子を惹き付ける事を自覚していないようです。
わたしは胸がズキンとして、ハァ、と小さくため息をつきました。
その後、デッキチェアに背中を預けて2人でジュースを飲んでいると、
UとYさんがわたしたちを見つけてやってきました。
YさんがどうやってUの怒りをなだめたのか謎でしたけど、
Uは見るからに機嫌が好さそうです。
「○○、せっかくプールに来たんや。足でも水に浸けて涼んだらどないや?」
「そうね」
「じゃあ、○○、俺は泳ぐから、タイム計ってくれるか」
お兄ちゃんは腕からダイバーズウォッチを外して、
わたしにタイムの計り方を教えてくれました。
Uの強制的な勧めで、Yさんもお兄ちゃんと並んで泳ぐことになりました。
Uは自信ありげでした。Yさんは泳ぐのが速いそうです。
Uの「負けたら承知せえへんでー」という声援に送られて、
勝負?が始まりました。
最初の一往復、お兄ちゃんはゆったりしたペースに見えました。
Yさんは力強いフォームで水をかいています。
戻ってきたのは、Yさんのほうが先でした。
わたしは予想外の結果に、ボタンを押し損なうところでした。
まさかお兄ちゃんが負けるなんて、想像もしていなかったのです。
さらに何往復かするうちに、Yさんがはっきり遅れだしました。
お兄ちゃんのペースは変わりません。
Yさんがギブアップしてプールから上がった後も、
お兄ちゃんは変わらないペースで泳ぎ続けました。
「ぷは〜、バテた。ナマったなぁ。最近運動してへんからなぁ」
「だらしないでぇ。ふだんからもっと鍛えな」
Yさんに文句を言いながらも、Uは嬉しそうでした。
お兄ちゃんがなかなか上がってこないので、UとYさんは屋外プールに、
ウオータースライダーに乗りに行きました。
少し息を荒くして、お兄ちゃんがやっとプールから上がってきました。
「お兄ちゃん、だいじょうぶ?」
「ああ、タイムはどうだった?」
腕時計を返すと、数字を読んで、お兄ちゃんはうなずきました。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「最初の往復で、わざと負けたの?」
「あ? 別に何か懸けてたわけじゃないだろ?
飛ばすとあとできつくなるから、ペースを守っただけだ。
俺が負けると、悔しいか?」
「うん。お兄ちゃんは絶対一番だと思うから」
「絶対……なんてコトないよ。
負けることもあるし、失敗することもある。人間だからな。
生きてるかぎり、何回でもやり直せばいいんだ。
だから、健康が一番。いつか、いっしょに泳ごうな」
「うん。来年になったら、体育できるようになる……カナヅチだけど」
「教えてやるよ。1年なんてすぐだ」
わたしは、やっぱりお兄ちゃんはわたしの一番だ、と思いました。
お兄ちゃんが背泳ぎや平泳ぎでゆったり泳ぐのを、
足を水に浸けてのんびり眺めていると、VとXさんがやってきました。
Vは珍しく、Xさんの後ろでしゅんとしています。
「どうしたの?」
見ると、怪獣の浮き袋がありません。
「いや、監視員に見つかって、怒られちゃったんだ。
すぐに仕舞わないと退場させるってさ」
「おにーちゃんが代わりに怒られてくれたのー。ごめんなさいー」
Vは半べそをかいていました。
「ボクが止めるべきだったのに、止められなかったんだから、
仕方ないよ」
Xさんは苦笑しました。XさんはVに甘すぎたんじゃないか、と思いました。
「V。お兄さんの言うこと聞かなくちゃ」
「うん。わかったー」
「ところで、Uちゃんは?」
「Yさんと仲直りして、ウオータースライダーに乗りに行きました」
「僕らも行こうか?」
「外は日射しがきついから、わたしはダメです。
2人で行ってきてください」
「そう? 少しぐらいならと思ったんだけど、残念だね。
じゃ、Vちゃん、行こうか」
お兄ちゃんがプールから上がってきたので、Vの怪獣のことを話すと、
「やっぱりなぁ」と笑いました。
「そろそろ、温泉入りにいくか?」
「うん」
仲イイィ・・・・。
2017-11-13 22:34:33 (6年前)
No.1