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Pさんと赤ん坊が居なくなって、人の気配がしなくなりました。
白い天井と壁には、学校とは違う、死の匂いが漂っているようでした。

看護学生のQさんが、検温にやってきました。
Qさんは、ふっくらした顔立ちの美人で、
居るだけで周りを賑やかにするような、明るい性格でした。

「ひとりになって、寂しくなっちゃったね。
 あと2〜3日したら、大部屋のベッドが空くから。
 そっちに移ったら、もっと賑やかになるよ」

それでもわたしは、かすかにうなずくだけでした。
Pさんとの別れと、自分の病気への不安が、心を覆っていたのです。

回診の時に、わたしはO先生に尋ねてみました。

「先生……質問があります」

「なに?」

「どうして急に、わたしは病気になったんですか?」

「ずっと見てたわけじゃないから、
 先生もはっきりこうだ、とは言えないな」

先生は笑みを浮かべました。

「でも、見当は付けられるかな。
 ○○ちゃん、夏休みに熱出して寝込んだでしょ?」

「はい」

「たぶんその時に、扁桃腺から腎臓に菌が入ったのね。
 その時はそれだけで済んだ。見た目は何も変わらない。
 でも、本当はそうじゃなかった。
 腎臓の中に、菌のことを覚えていて、次に来たらやっつけようとする、
 『抗体』というものが出来るの。
 ……それで、2回目に菌が入って来たら、どうなると思う?」

「抗体と、菌が戦う……?」


484 名前:お兄ちゃん子 投稿日:01/09/04 18:55 ID:83PRi1Sg
「正解。
 運動会で体力が弱ったせいで、扁桃腺がまた腫れたんでしょう。
 そして菌がまた腎臓に降りてきた。
 抗体が菌と戦うのは、人間の体が自分を守ろうとする普通のやり方。
 でも、そうすると『炎症』が起きる。
 戦いの煽りをくって、周りが火事になるようなものね。これが『腎炎』。
 あなたの場合は、急に症状が出たから『急性腎炎』。
 ほとんどの場合は、何年かしたら全快するわ。
 でも、症状がゆっくり出てきたり、急性腎炎が治りきらなかったりすると、
 なかなか治りにくくなる。これが『慢性腎炎』ね。
 慢性になると、10年以上、下手すると一生病気と付き合うことになる。
 だから、わたしの言うことをよく聞いて、
 急性のうちにしっかり治すようにしなくちゃ駄目。
 これでわかった?」

「はい。よくわかりました」

これで当分のあいだ、学校に行けそうもないことがはっきりしました。
学校に行って、楽しいわけではありませんでしたが、
このまま病院に居たのでは、お兄ちゃんへの手紙を書けません。

O先生が居なくなると、わたしは病室でひとりになりました。
ベッドに寝たままでは、窓の外の景色は見えません。
白い天井を眺めていると、ここは外とは違うのだ、と思いました。

大人たちは、誰もが注意深く言葉を選んでいるようでした。
それでもここには、死の匂いが染み付いていました。
一日中寝てばかりいると、甘い死が、眠りに隣り合っているようでした。

お兄ちゃんに会いたい、と思いました。
枕の下に入れていた、お兄ちゃんの写真を取り出しました。
わたしが入院したことを、お兄ちゃんに知られるわけにはいきません。

受験を控えているお兄ちゃんに、心配をかけたくありませんでした。
手紙で懇願すれば、来てくれるかもしれません。
でも、お兄ちゃんの負担には、なりたくなかったのです。

午後になって、担任の先生がお見舞いに来てくれました。
先生は花を替えて、椅子に腰を下ろしました。

「××さん、退屈じゃない?
 本でも持ってきてあげましょうか」

「……まだ、テレビもラジオも本も、禁止されてるんです。
 興奮するといけないからって、O先生が」

「……そうなの。
 O先生にお話してみるわ」

先生は、わたしが退院して話題に遅れないようにするためか、
学校でのエピソードをあれこれ話しました。

わたしは機械的にうなずきながら、遠い世界のお話を聞いているような、
そんな気がしました。

わたしが疲れるといけないからと、先生が椅子を立ちました。
ひとりになって、わたしはうとうとしました。
昼も夜も、ずっと体中に重りが付いているようでした。

お兄ちゃんの夢を見ました。
ふと目が覚めると、枕元の椅子に、お兄ちゃんが座っていました。
わたしはまだ、夢を見ているのだと思いました。

「○○、おはよう」


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