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b君がわたしに声を掛けてきたのは、ある休み時間のことでした。
わたしは自分の席で、文庫本を読んでいました。
本を読んでいるあいだのわたしは、周りの声に反応しなくなるので、
UやVも邪魔はしませんでした。

本を照らす日射しが翳ったので、わたしは顔を上げました。
すぐ目の前に、b君の顔がありました。
こんなに近くで見るのは、これが初めてでした。

「なに?」

わたしが問いかけると、b君はにこっと白い歯をこぼしながら、
囁きかけてきました。

「××さん、昼休みに、ひとりで倉庫裏に来てね。ヨロシク」

b君はわたしの返事を待たず、すいっと立ち去りました。
わたしはb君の背中を見送りながら、来るべきものが来た……
と半ば憂鬱な気持ちになりました。

昼休みが始まると、UとVがやってきました。

「今日はお昼どこで食べよか?」

「お天気だからー、外にしようよー」

「……わたし、用事あるから、先に行ってて」

「? 用事って、なんやの? 昼休み早々」

「ちょっと、呼び出されてるから」

「職員室にか? アンタにしては珍しいなぁ」

「……倉庫裏に」

「っ! って、アンタ、誰にや?」

「b君」

「ホンマか!」

Vが叫び声をあげようとするのを、わたしは口をふさいで抑えました。

「……んぐんぐ……コクハクだよねー? ○○ちゃん」

「そうだと思う」

「aの言うたこともコレだけはホンマやったんやなぁ。
 ……で、アンタ、どないするん?」

Uが真面目な顔で聞いてきました。

「どうって……断る」

「そっかー。せやけど、よう考えたほうがエエかもしれんで?」

「……どういうこと?」

「うーん……bのコトはわたしもようは知らんけどな、
 割とよくしゃべる子ぉやし、よう考えたら、
 アンタにはああゆう子が合うてるかもしれへん、て思うんや。
 アンタの眼力にビビらへんだけでも、稀少価値やで」

「…………」

わたしはさっき見たb君の顔を思い出しました。
お兄ちゃんの優しそうな面立ちとはぜんぜん違う、
どことなく激しさを感じさせるような、精悍な表情でした。

「まぁ、アンタが決めるこっちゃけどな。
 断るんやったら、はっきり伝えたほうがエエで」

「なんて言ったら良いかな?」

「イヤ、とか、キショイ、とかは言わんほうがエエな」

「そんなこと、言わない」

「そやなぁ、『ごめんなさい』でエエんちゃうか?」

「それだけ?」

「ごちゃごちゃ言うてもしゃあないやん。
 誰とも付き合う気ないんやったら、そう言うたらエエ。
 そやけどなぁ、兄ちゃんと比べてもしゃあないで?」

心臓がどきん、と大きく打ちました。

「じゃ、行くから」

「ついていったろか?」

「ひとりで来てくれ、って言われた」

「まぁ……そらそうやけど、倉庫裏は人通りないからなぁ……
 コレ貸したるわ」

Uがわたしに、防犯ブザーを握らせました。

「少し離れたとこでVと2人で待っとくわ。
 音がしたら飛んでったるから、ヤバい、思うたら鳴らすんやで?」

「やばいことって?」

「まぁ、考えすぎやとは思うけどな。
 うちの校区にも痴漢や露出狂が出るぐらいやからな、
 用心に越したことはないっちゅうこっちゃ」

「ありがと」

UやVと話しているうちに、少し時間が経っていました。
b君はもう倉庫裏で待っているはずです。
わたしは足をはやめて、校舎裏に急ぎました。

倉庫の角を曲がると、b君が木にもたれてのんびりしていました。


モテモテですなぁ~!
2016-01-02 01:04:30 (8年前) No.1
いいなぁ!!
2017-11-13 19:31:56 (6年前) No.2
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