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バレンタインデーの次の日、わたしは電報を鞄に入れて登校しました。
教室に着いてUとVに挨拶すると、2人とも気味悪げに目をそらします。

「……? どうしたの? 2人とも」

Uが呆れたような顔で答えました。

「アンタ……顔が怖いで」

Vも横でうんうんと頷いています。

「え?」

怖い顔をしているはずはありません。朝からずっと微笑していたはずです。
わたしは思わず、頬に手のひらを当てました。

「怖い……?」

「鏡見てみ。薄気味悪いぐらいにやけてるで」

そんな……わたしは慌てて頬をきりりと引き締めました。

「なんかエエことあったんか?」

今度はUのほうがにやけた顔で訊いてきました。

「うふふふふ……」

抑えていても、つい笑みがこぼれてしまいます。
教室の隅に3人で移動してから、わたしは鞄から電報を取り出しました。

電報を開くと、またオルゴールの音色がします。
2人に回し読みさせてから、わたしは電報を丁寧にしまい込みました。

「どう?」

わたしは鼻をぴくぴくさせながら、2人に感想を尋ねました。

「すごいねー。わたしもこんな電報ほしいー!」

Vは陶酔した顔で、素直に答えました。
その隣ではUが、頬をひくひくさせて黙っています。

「Uはどう思う?」

「……くっさー。○○の兄ちゃんは外人か? めっちゃキザやん」

「…………ふーん。U、そういうこと言うんだ」

わたしとUのあいだに生じた、見えない火花から身を遠ざけるように、
Vがじりじりと後退しました。

「ケンカはよくないと思うょぉぉー」

結局、その日は一日中、Uと口を利かずに過ごしました。
VはわたしとUの顔を見比べて、困ったような顔をしていました。

翌日になって、Uと顔を合わせたとき、わたしはつい目をそらしてしまいました。
内心は昨日の態度を謝りたいと思っていたのですが、
どう声をかけたらいいのかわからず、きっかけがつかめませんでした。

そっぽを向いているわたしとUのあいだに、Vが腰を下ろしました。

「○○ちゃん、お雛祭りはどうするのー? お雛様飾るー?」

「雛祭り? 別に……なにもしないけど」

思いも寄らないことを訊かれて、わたしは反射的に答えました。
わたしの家ではもともと、雛祭りを祝う習慣はありませんでした。

「そうなのー? それじゃ、うちにおいでよー」

「え?」

「お雛祭りの日に、ごちそう食べるんだよー。美味しいよー?」

黙って聞いていたUが、ぼそりとつぶやきました。

「Vん家ではな、ごっつうでっかいお雛様飾るねん。パーティー開いてな。
 うちにもお雛様はあるけど、比べモノにならんわ」

「うん……行く。V、ありがとう……。
 えっと……U、昨日はごめんなさい。自慢したみたいで、悪かった」

わたしが下を向いてぼそぼそ言うと、Uが照れたように言いました。

「わたしこそ……ごめん。あんな嫌み言うてしもて……自己嫌悪しとったんや」

Vが満面の笑顔になって、はしゃぎ出しました。

「今日もうちにおいでよー。もうお雛様飾ってあるんだよー?」

「うん」

学校の帰り、すっかり馴染み深くなったVの家に、3人で向かいました。
和室の広間の端を、見上げるほど立派な雛壇が占領していました。

「これは……すごいね」

「驚いたやろ。うちも去年見たときびっくりしたわ」

にやりと笑うUは、もういつも通りでした。

やがて、雛祭りの当日になりました。
Vの家には、わたしとUだけでなく、YさんとXさんも招かれていました。

Vのお爺ちゃんが、わたしたちにまでVのアルバムを見せびらかせにきました。
アルバムの写真には、雛壇の前に居る、まだよちよち歩きのVが写っていました。

夜遅く家に帰って、わたしはお兄ちゃんに電話をかけました。
わたしからお兄ちゃんに電話するのは、ずいぶん久しぶりでした。

「○○か……? どうした?」

お兄ちゃんの声は、少し面食らっているようでした。

「今日ね、Vの家で雛祭りパーティーがあったの。
 YさんもXさんも来てた。お兄ちゃんも居ればいいな、って思った」

「……そうか」

「お兄ちゃん、春休みはいつ帰ってくる?」

沈黙が流れて、疑問に思い始めたころ、お兄ちゃんは返事をしました。

「○○……春休みは帰れないんだ」


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