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「ホントぉー? ○○ちゃんモテモテだー」
「……ウソ、でしょ?」
わたしは首をひねりました。
面識もない(はずの)b君に惚れられるなんて、信じがたい話です。
「まぁ、コレは根も葉もない噂やとわたしも思う」
ホッとしました。
「……問題は、aがその噂を信じてるらしいちゅうこっちゃ。
せやからアンタのことがチョーむかつくんやろな。
ホンマにアホやなぁ……」
なんとなく、頭の中に1つの図式が見えてきました。
「つまり、aさんは、b君が好きなんだ」
「ちゃうちゃう。
うちのクラスは男子と女子の仲が悪いねん。
女子のリーダーのaと男子のリーダーのbはイガミおうてる」
「…………ハァ?」
わたしは間抜けな声を上げました。
出来上がったばかりの図式が、あっけなく崩れていきました。
「ぜんぜん、わけがわからない……」
「まぁアンタには無理やろな。
これがビミョーな乙女心ちゅうやっちゃ。
bのコトは好きやないけど、
男子のリーダーが他の女にちやほやするんは許せへんのやろ」
「…………」
開いた口がふさがりませんでした。
Uの分析が本当なら、aさんの動機はあまりにも馬鹿げています。
「ホンマに呆れた話やで。
そんなわけで、アンタが今一番ホットな火種になってるわけや」
Uはひとりで、うんうんとうなずきました。
わたしは、今聞いたaさんの理不尽さに呆れているのか、
それともこんな誇大妄想じみた話を思いつくUに呆れているのか、
自分でもよくわかりませんでした。
「ところで……危機ってなんだっけ?」
「あ……忘れとった。
アンタが話の腰折るから、脱線してもうたやん」
「……あ、そう」
「林間学校のお泊まりの時間に、早う寝るヤツはおらへん。
下手したら徹夜でお喋りするはずや。
aにしてみたら悪辣な罠をしかける絶好のチャンスや。
うっかり失言したら、次の日には学校中に尾鰭つきで広まってるで」
「…………」
どうも被害妄想じみて聞こえましたが、Uの勢いはまだまだ止まりません。
「定番のネタで盛り上がるとしたら、たぶん猥談になる。
○○、アンタ『オナニーしてる?』て聞かれたら、なんて答える?」
「してる」
「……ホンマか? 指は何本入れる?」
「指は入れない。マッサージャー使ってるから」
「…………なんやて?」
Uの口があんぐりと開きました。
「あ、あ、アンタ……そんなモン入れて、痛くないんか?」
Uの口調に、珍しく照れが混じっていました。
「……? 入れるって、なにを?」
わたしの認識では、マッサージャーは入れるものではありませんでした。
ある種のバイブレーターと同じ形をしているなんて、知るわけがありません。
「マッサージャーやがな!」
「マッサージャーは、入れるものじゃなくて、あそこに当てるものだよ?」
「…………ビックリしてまだ心臓ばくばく言うてるわ。
せやけど、アンタがオナニーしてるだけでも意外やったで。
てっきりなーんも知らんのか思うてた」
「わたしもびっくりだよー」
VがUに同意しました。
「そう? Vはオナニー、してないの?」
「えー? やだーそんなのー、恥ずかしくてできないよー」
Vはくねくねと身もだえしました。
「せやけどアンタ、マッサージャー使うなんていつ覚えたんや?
変な雑誌でも読んだんか?」
「最初から。お兄ちゃんに教えてもらった」
「……!」
「きゃーーーーーー!!!」
耳元でVに叫ばれて、耳の奥がキーーンとしました。