152:



あのb君が話し合いでそう簡単に引き下がるとは、信じられませんでした。
思わず、疑いの声が漏れました。

「ホントに……?」

「ん? 兄ちゃんを信じられないのか?」

「でも……」

お兄ちゃんが何かb君に酷いことをしたんじゃないかという想像が、
頭の中に広がりました。

「そうか、信じてくれないのか……」

お兄ちゃんの声が淋しげになりました。

「あ、信じる、信じる、けど……」

どう反応したら良いのかわからず、わたしは困惑しました。

「心配すんな。2学期になってもまだ付きまとってくるようだったら、
 3年のcに相談してみろ」

「cさん?」

「昔可愛がってた俺の後輩だ。お前のことをよく頼んでおくから。
 俺の代わりにb君と話し合ってくれるはずだ。安心したか?」

わたしが心配していたのは、b君よりお兄ちゃんのことだったのですが、
微妙に通じていないようでした。

「うん……」

見上げると、お兄ちゃんが情けなさそうな顔をしていました。
わたしはお兄ちゃんにまだ、お礼を言っていないことに気付きました。

「ありがとう」

そう言いながら背伸びして、お兄ちゃんの頬に触れるだけのキスをしました。
お兄ちゃんはビックリしたように伸び上がりました。

わたしは恥ずかしくなって、くるりと背を向けて階段を上がりました。
部屋の扉を閉めて寄りかかると、どきどきと胸が高鳴りました。

「キス、しちゃった……」

わたしは弾みでキスをした自分の唇に指を当てました。

その後わたしは夕食の時間まで、ベッドに座ってぼうっとしていました。
階段を上がる足音がして、部屋の扉がノックされました。

「○○、ご飯だぞ。下りてこい」

お兄ちゃんは先に階段を下りていきました。
わたしはそろそろと階段を下り、ダイニングに向かいました。

久しぶりに食べるお兄ちゃんの手料理でしたが、
気恥ずかしく、ぎこちない雰囲気が漂っていました。

俯いて黙々と食べていると、お兄ちゃんのほうから口を切りました。

「○○、中学校生活はどうだ?」

「楽しい。友達も出来たし」

「UちゃんとVちゃんだったな。よかったなあ。
 よくいっしょに遊びに行くのか?」

わたしがうなずくと、お兄ちゃんは顔をほころばせました。
わたしに友達が出来たことが、本当に嬉しそうでした。

「もう、淋しくなくなったか?」

「うん……UとVには感謝してる。
 でも、お兄ちゃんが居ないと、やっぱり……淋しい。
 高校卒業したら、お兄ちゃん帰ってくる?」

「ん……ああ、たぶんな」

また、沈黙が降りてきました。
しばらくして、お兄ちゃんがぽつりと言いました。

「ところで、R君とは、結局友達になれなかったのか……?」

「R君は、なんだかわたしを避けてるみたい。
 なぜだかわからないけど……」

「そっか……」

「うん……でも、UとVが居てくれるだけで十分」

「……そうだ、お前の友達にいっぺん会ってみたいな」

「UとVに?」

「ああ、一度あいさつしてお前のことをよろしく頼みたいし」

「2人とも今、教会のキャンプに行ってるの。
 わたしも誘われたんだけど、山歩きはまだ無理だから。
 Uのお兄さんのYさんから、プールにも誘われたけど」

「体のほうの調子はどうなんだ?」

「毎月検査に行ってるけど、調子は良いみたい。
 でも、2年生になるまで、体育はずっと見学」

「そうか、じゃあ、海水浴は来年までお預けだな。買い物にでも行くか。
 キャンプが終わったら、UちゃんとVちゃんを誘ってみてくれ」

「わかった」

食後にお兄ちゃんと肩を並べて食器を片付けました。
お兄ちゃんが食器を洗い、わたしが布巾で拭いて食器棚に仕舞います。

リビングのソファーに並んで座ってのんびりしていると、
お兄ちゃんが言いました。

「今日はまだトレーニングしてないんだ。ちょっと手伝ってくれ」


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2016-05-23 13:17:31 (7年前) No.1
それな・・・。
2017-11-13 19:48:29 (6年前) No.2
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