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「本当に美味しいパフェなんですよ?」
「あのなぁ……」
言葉が途切れたところに、後ろから声を掛けられました。
「○○、なにしてるんや!」
わたしが振り返ると、UとYさんが立っていました。
「もう……待ってても来うへんから迎えにきたで。
Vもお待ちかねや」
「……?」
約束した覚えはありませんでしたが、Uが助け船を出してくれたのだ、
とわかりました。
「ごめんなさい、遅くなっちゃって」
Yさんがちらちらcさんを見ながら口にしました。
「○○ちゃん、行こうか」
わたしは向き直って、cさんに頭を下げました。
「そういう訳ですので、失礼します。またいずれ、ご馳走します」
cさんは難しい顔をしていましたが、肩をすくめました。
「じゃ、またな」
わたしは、UとYさんのあいだに挟まって歩きだしました。
「U、ありがとう。お兄さん、ありがとうございました。
でも、どうしてわたしがここに居る、ってわかったの?」
「アンタの様子が変やったから、急いで帰って兄ぃを連れてきたんや。
途中からアンタらを付けてたん、気ぃつかへんかったか?」
「ぜんぜん」
「鈍ぅ〜。遠くから見てたら、なんや困ってるみたいやったから、
声かけたんや。案の定やったな」
Yさんが控えめに、口を挟みました。
「○○ちゃん、あの男、なんなの?」
「3年の先輩で……お兄ちゃんの、知り合いです」
「ちょっと……柄悪そうな感じだったね。
知らない人をどうこう言うつもりはないけど、さっきは緊張したよ」
わたしには、返す言葉がありませんでした。
黙って歩いていくと、いつの間にかVの家の近くに来ていました。
「……U? ホントにVが待ってるの?」
「そうやで。アンタがいつにも増して暗いからなぁ。
ぱーっとケーキでも食って憂さ晴らそう思うてな。
Vに頼んだんや」
VとUにYさんを加えて、Vの部屋で即席のパーティーが始まりました。
わたしはみんなの気遣いが嬉しくて、知らず知らず微笑みながらも、
いつしかひとつの考えに心を奪われていました。
「○○、どないしたんや? ぼーっとして」
「あ、ごめん……」
「そろそろ話してくれへんか?」
「……なにを?」
「アンタが何をそんなに悩んでるかっちゅう理由をや」
「悩んでるように……見えるかな」
「アンタがぼーっとしとるのはいつものこっちゃけどな、
目が泳いでるのはおかしいで。
わたしらで役に立つかどうかわからへんけど、
話したほうがスッキリするんと違うか?」
YさんとVがうむうむとうなずきました。
わたしは居住まいを正して、口を切りました。
「お兄さん、殴り合いの喧嘩をしたこと、ありますか?」
「え、え、俺? そりゃまぁ、何回かはあるけど……」
「どんな時、するんですか?」
「えーと……口喧嘩じゃ収まりがつかなくて、
我慢できなくなった時かな。
こっちから手を出したことはないけど、やられたらやり返すね」
「いったいなんの話やのん?」
「○○ちゃん喧嘩するのー?」
3人とも、話の流れが見えなくて、戸惑っているようでした。
「わたし、cさんに、お兄ちゃんの話を聞いた。
お兄ちゃんは、何かに悩んでたんだと思う。
だから、気を紛らわせるために、喧嘩してたんじゃないかな……」
「うーーん……アンタが暴力嫌いなんは知ってる。
せやけどなぁ……言うてわからんヤツもおるねんで?」
「……お前は手が早すぎるんと違うか?」
「兄ぃは黙っとき! わたしの話の途中やで。
えっと……アンタには話してへんかったけど、
アンタの兄ちゃんの噂には喧嘩の話もあったんやで」
「どんな?」
「女子が街で絡まれてる時に、助けたコトが何遍もあったんやて。
下心があって助けたわけやない、て名前も言わへんかったらしいけど、
アンタの兄ちゃん有名やん。すぐにわかるで」
「そう……」
「エエ話やん、な?」
「○○ちゃんのお兄さんカッコイイー!」