5:


お兄ちゃんはぶるっと震えて、
まだ押し黙っています。

「教えてくれないなら、
 お母さんに、お兄ちゃんがそれで変な事してた
 って言うよ」

なんでその時そんな事を口に出来たのか、
自分でもよく解りません。
気が動転した時のショックが抜けて、
一時的に精神的優位に立ったと、
舞い上がっていたせいかもしれません。

お兄ちゃんをじっと見ると、
お兄ちゃんは口をあわあわ動かした後、
とても言いにくそうにこう言いました。
「それを……、あそこに当てて……」
最後の方は声が小さくて聞こえませんでした。

「どうして、そんなことするの?」
と聞くと、
「気持ち、よくなるんだ」
と答えました。

その頃のわたしは、毎日欠かさず新聞を読んで、
お兄ちゃん程ではなくても、
自分ではかなり大人のつもりでいました。
けれど、一つ決定的に欠けていたのが、性の知識でした。

学校で、女の子の仲良しグループから 疎外されていたせいかもしれません。
性教育の授業で男女間のセックスを教えられたのは、
5年生の半ばでした。
当時のわたしはオナニーという言葉さえ
知らなかったのですから笑ってしまいます。

お兄ちゃんはわたしに頼みました。
「お母さんには、黙っててくれ」
普段のわたしなら、
お兄ちゃんにわざわざ懇願されなくても、
たとえ一方的な命令でも唯々諾々と従ったでしょう。
しかし、この時のわたしは、
いつものわたしではありませんでした。

わたしはずいぶんと大胆な事を口にしました。

「秘密にする。
 その代わり、わたしにも貸して」

お兄ちゃんは、何とも言えない変な顔をしました。
わたしの出した交換条件が、
あまりにも突拍子もなかったからでしょう。

「わたしも同じ事すれば、
 お兄ちゃんと同じ。
 二人だけの秘密……」

わたしは、お兄ちゃんと共有する「秘密」という言葉に
魅せられていました。
誰も知らないお兄ちゃんを、
独占できるような気がしたのです。

お兄ちゃんは、身動きしませんでした。
目をおかしいぐらいきょろきょろさせて、
わたしが右手を差し出すと、
ロボットみたいなぎこちない動きで、
マッサージャーを手のひらに載せてくれました。

わたしは、くるりと回れ右して、
足許に落ちていたテスト用紙を拾い上げ、
結局それをお兄ちゃんに見せる事なく、
部屋を出ていきました。


聞いちゃダメだよ〜
2016-05-30 19:29:59 (2年前) No.1
わー……こうして知ってしまうのか
2017-05-30 02:36:47 (1年前) No.2
残り127文字